2F−NOVEL10

うえだ真由[甘い探検]真瀬もと[スウィート・リベンジ 1]真瀬もと[スウィート・リベンジ 2]うえだ真由[夏の贖罪]月村奎[Spring has come!]


うえだ真由甘い探検/オークラ出版 アイスノベルス/紺野けい子

[あらすじ]
高校2年生の征祐は、彼女の遥にねだられしぶしぶ出かけたダブルデートで、他校生の一志と出会う。人懐っこくて大らかな一志に、神経質で他人をよせつけないところのある征祐は微妙な嫉妬と居心地の悪さを感じて、なかなか馴染めない。しかし進学校に通う征祐に勉強を教えてくれるように頼む一志の誘いを、断ることが出来なくて…。

[感想]
この作品ではじめて読んだ作家さんです。うえださんの他の作品をオススメしていただいたのですが、偶然これを見つけて手にとってみましたらば…。いや〜青春ていいね。すごくかわいくて爽やかな感じのお話でした。

同じ背格好の高校生二人、そこでもう惹かれるでしょう!よくある学園モノの、かわいくて守ってあげたいような男の子はひとりも出てこなくて、主人公の征祐は結構クールに自分や現実を見ている、きっとこういう感じの子はたくさんいるよな、っていう高校生です。一方相手の一志は、またこれがいい男でね。絶対将来有望だと思われます。男の子らしくて、のびやかで大らかで大雑把で、でも鈍感なやつでもなくて。

お互いの中に自分にはないものを見て、それに惹かれあっていく二人。相手といるのがだんだん楽しくなって、友情なのか恋なのか、男同士だからその境界線を見極めるのにも時間がかかって、だかこそ気付いた時にははまってて…。
征祐視点で語られていくお話は、その感情の動きがすごく丁寧に書かれていて、読んでいて焦れったさまでが心地良いです。その年頃に感じる、進路や恋の悩み。そういう時期を通り過ぎてきた人には、読んでいるとその頃の感情が思い出されるのではないでしょうか。特別な事件はないけれど、日常の一つ一つの場面にいつか見た風景を、重ねられるような作品でした。
二人が二度目にキスをした日の、駅までの道でみた夕陽のシーンは、なんでもない描写なのに見てるように情景が浮かび上がってきて、ちょっと目が潤んでしまいました。(2001.03.29)

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真瀬もとスウィート・リベンジ 1巻/新書館 Dear+文庫/金ひかる

[あらすじ]
19世紀末のロンドン。探偵のバートは、事務所の出資者で貴族のアルジーと、法に背く関係を続けていた。
ベットを共にしながらも、お互いの気持ちはそれぞれ別の所にあって愛はないはず。しかし、その関係が次第に変化していって…。
書き下ろし「undo―アンドゥ―」収録

[感想]
実はこの作品、一番最初に読んだのは雑誌に掲載された最終回で…(笑)それがとても面白かったので、最初から読みたいなと思って購入しました。いや〜、いいですよ。かなり私好みです。好きな気持ちを自覚してはいけない切なさ、っていうんですかね。切な甘いみたいな感じです。

主人公で受のバートは、大変な過去がある割には、というかあるからこそ?真っ直ぐでいい子なんですが、攻めのアルジーがねぇ。全然攻め攻めしくないのよ。っていうかむしろ受!過去から性格からなにから、全て受!受けタイプ。名前もアルジャーノンだしねぇ(関係ない)。アルジーとかなんて、途中ちょっとそれっぽいところが、出てきました。
でもですね、それが全然嫌じゃないんですよ。そんな攻とか受とかいう役割なんてどうでもいい感じで。だって二人は鍵と鍵穴みたいなんだよ〜。なんかいいからぐだぐだ言わんで一緒にいなさい!って思うんです。そうはいかないので、色々話が面白くなるんですけどね。まあ、正直な話、アルジーがもっと前向きな人間だったら、全てはもう少し色々なことが上手くいっていると思うよ(笑)ああやってうじうじ悩むのが、貴族の退廃っつーものなのか?もし私がアルジーの乳母とかだったら、殴るね(笑)殴って教育するよ。

ところでこの作品、結構怖いです。人間の怖さを感じちゃいました。舞台や時代背景もあって、階級に支配されている人々が出てくるのもあると思うんですが、結構平気で人の尊厳を傷つけるようなエピソードが出てきたりして、それで読んでいて不快になるっていうことは作品として成功しているんでしょうけれども…。意外にシビアだなぁと、思いながら読んでました。
なんかしきりに同棲愛は法で禁じられてて…っていうエピソードが出てきたんですが、二人の周囲の人ってあんまりそのことに関して嫌な目とか悪い動きとかしないので、そんなに効果的な感じがしなかったのですが、これからの伏線になるんでしょうか?
私の突っ込みが多いけど、それはかなり愛があるからで(笑)いいお話なので、とてもオススメです。エッチシーンとかがあんまりないっていうか、あるけど描写がほとんどないんですが、前後やそれ以外の部分でほんのり〜と色気が出てていい感じです。それにその時代のイギリスとかが好きな人は楽しめるかな?雰囲気が出てます。昔ドラマで見たシャーロックホームズ(ジェレミー・ブレットが出てるやつ)を思い出しました。そんな乏しい例えですみません。2巻の感想はこちら(2001.03.27)

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真瀬もとスウィート・リベンジ 2巻/新書館 Dear+文庫/金ひかる

[あらすじ] 
お互いを愛さないという約束の元に関係を続けているアルジーとバート。しかしバートの心はアルジーと過ごす時間が増え、彼を知るごとに混乱し始める。アルジーの誘いでロンドンを出、南仏プロヴァンスで恋人同士のように過ごしたバートは、帰国した後アルジーから突然別れを告げられる…。
上記あらすじの「ビター・ウイッシュ」とその後を描くアルジー視点の書き下ろし、「遠い未来の偽り」収録。

[感想]
1巻の感想はこちら
バート、なんていい子なのっ!頭ぐりぐりして、可愛がりたいです(20歳だけど…笑)。どうしてそれなのにアルジーがいいのかなぁ、バートならもっといい人見つかるって。アルジーにするなら、得体が知れない医者だけど、シリルの方がまだまともな人だと思うし。

というわけで、1巻では結構メインになっていた謎解きは影をひそめ、アルジーとバートの恋のお話になってます。それがまた切ないのなんの。とにかくバートが切ない。誰も彼もがバートを傷つけやがります。もう本当に読んでて悲しかったよ、私は…。
アルジーの過去の罪と、その罪によって悲しい目にあわなければいけなかった娘クリスティナ。可哀相だとも思うし、人間が多少歪むのもわかる気がするけど、だからってバートをいいように扱って、傷つけていい理由になんてならないぞ!この似たもの後ろ向き親子が!!と思うと、憎しみがふつふつと…。
だからといってバートは、決して誰かが悪いなんて思わない。ひたすら自分のなかにある悲しみから目をそらして、一人で頑張ろうとするの。バートが傷つき壊れていく様子が、読んでいてリアルで痛々しくて、泣きたくなりました。それでもアルジーを愛する自分の心に気づいて、新しい強さを手に入れるバートは本当にいい子。けなげな受。好きな人は絶対読んで欲しいです。
バートを支えるジェムや周囲の人たちはほんとにいい人です。奥さんはいるけどさ、今からでも遅くないからジェムの方に戻ったほうがいいんじゃないか、バート。あのアホ貴族(アルジーね)の所にいるよりは(笑)

で、そのアルジーの書き下ろしは、まーだこんなこと言ってるよ。って感じ。もういいからバートが好きだって認めなさいよ、アンタ。と突っ込みが入りました。どうにも小さいことにうじうじしているとしか思えない。でもね、このアホ加減がどうも憎めないんですよね。でも早目になんとかして、バートを幸せにしなさい(命令…笑)。

お話全体にスピードはないんですが、その分じっくり登場人物の感情が描き込まれて、もう突き詰めて突き詰めて逃げられなくなって、関係がじりじり進展していくじれったさがいいです。こういうお話、大好きだなぁ。せつないお話好きな方には、とってもオススメです。(2001.04.05)

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うえだ真由夏の贖罪/オークラ出版 アイスノベルス/金ひかる

[あらすじ]
周到に作られた親切で優しい顔で、京介は一人息子の家庭教師として有村家に近づくことに成功する。過去の復讐の為、有村家を崩壊させる目的で母親の圭子と関係を持つが、強かであくまでも自分との関係を遊びと割り切る圭子に、京介は焦りを隠せない。そんな時、自分に憧れとそれ以上の感情をもつ息子・馨の存在に気づくが…。

[感想]
オススメしていただいた本作、とても面白かったです。実はこの話を読んでいて、宮本輝さんの「避暑地の猫」という作品を思い出してしまいました。軽井沢と復讐。どろどろした人間関係とか空気感や舞台が微妙に共通している感じがしました。話も読後感もまったく違うんですけれど。

中篇が二作収録されていて、最初が京介の復讐、次が10年後の馨の復讐です。最後まで話の核心を見せない話の構成で、読者を飽きさせないです。どちらも京介の視点で書かれているので、読むほうも追い詰める側と追い詰められる側を両方体験するのですが、これがどっちも息が詰まりそうになりました。
何度も復讐へ行くか、やめるかその岐路は訪れるのに、何気ないきっかけで最後まで突き進んでしまうストーリーには、京介と馨が甘い時間を重ねるほどによけい影が増してきて、なんだか心がざわざわしました。

登場人物もとっても面白い。私がびっくりしたのは、二篇比べたときの京介と馨の変わりよう。10年の歳月で二人が年を重ねて変貌を遂げている様が、何気ない仕草に読み取れます。10年後の京介の身勝手さには、最初本気で失望しそうになっちゃいました。可哀相ではあるけれど、同情はできない感じで。
圭子は脇役だったのであんまり書かれていないのですが、彼女のことはもっと読みたかったような気がしました。

結構シリアスな話なのに読後感がいいのが印象的です。復讐という言葉の通りいいことばかりはないけれど、最後に残ったものは決して虚しさや悲しさだけではない。色々な苦さの中で、馨の一途さだけには本当に救われたような気がしました。(2001.04.03)

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月村奎Spring has come!/新書館 Dear+文庫/南野ましろ

[あらすじ]
4年前に母親が家を出て以来、一家の家事全般を取り仕切っている高校3年の長男・大輔は、自分がいなくなった時のことを考えて地元の大学の推薦入学を決めたが、自分はもっと違う人生を選べたのに…という思いから鬱屈をためるばかり。そんな時、同級生に連れて行かれた駅前の商店街で、美味しい総菜屋を営む耕平と出会って…。

[感想]
大輔の不平たらたらぶりに、ちょっと圧倒された作品でした(笑)電気の付けっぱなしにも、食器の片付け方にも、果ては冬は寒い、春はほこりが多い、なんて季節にまで毒づいちゃう大輔が、不快なようでいて決して嫌いになれないです。読んでいてムカムカはするんですが、そういう妙な完璧主義ってわかる気がして。よーく考えると、それは同属嫌悪でしたね(汗)自分の中にないとは言い切れない部分が、結構イタイです(笑)
そういう風に自分をキツキツにしている大輔が、一体どうなっていくんだろうと思っていたら、登場したのが耕平。大輔視点で書かれているから、耕平は大らかで余裕のあるように見えるけれど、実は23歳?くらいなんだよね。う〜む、それにしては大人だなと思わないでもないですが、自分のいる場所を見つけた人って、そうじゃない同い年よりはほんの少し余裕があるのかも。耕平は過去も結構ヘビーですが、それを乗り越えたからこその今なんですよね。ただ大輔は耕平を大人と思っているけれど、以外にスピード好きな走りや愛車とかに、23歳加減が見えてます。耕平視点のお話があったら、ちょっと読みたかったな、と思いました。

大輔が自分の暮らす田舎町から出て耕平の車でドライブに出かけたときに、ああ実はこの町を出て行くことって簡単なんだな〜って思うところに、すごく共感してしまいました。結構遠いと思っていた場所でも、自分の年齢や気持ちが変われば、案外近くなったりするんですよね。この話が本当に面白いと思うのは、主人公に目に見えるような事件や環境の変化が訪れるんじゃなくて、ただ気持ちの中でだけ大きな変化がくることです。でもその気持ちの変化は、どんな環境の変化よりすごいことなんですよね。耕平に出会えた事で、大輔に訪れる変化は本当に心地よかったです。意地っ張りなところは、根本的に変わってないけど(笑)(2001.04.11)


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