「あ、良かった。いたのね」
「ああ、か」
ノックをしてみたものの返事は無かったが、扉を開けてみれば中にはきちんと家の主が居た。
彼はが勝手に入ってきたことを咎めたりはしない。
「マケドニアの視察か?大変だなお前も」
ウォレンはそう言って、に椅子を勧めた。
簡素ではあるが必要最低限の物の揃った小屋で、戦後ウォレンは元通り、猟師として一人で暮らしている。
はそんな彼のもとへ、たびたび足を運んでいた。ある時は海の、ある時は街の。森では手に入らないような土産を持って。
「あら。そうじゃないわ。私はあなたに会いに来たのよ」
戦いが終わった後でも、いつでも何度でも会いましょう。そう約束したのに、彼からは一度も会いには来てくれない。だから自分から会いに来ている。
もしかしたら会うのが嫌なのかしらと、そう思ったことは無くもないが、ウォレンが彼女の来訪に嫌な素振りを見せないので、気にすることもなく何度でもここへ来るのだ。
「だって、あなたはアリティアには来てくれないし。あなたと話したかったら、私がここに来るしかないでしょう?」
少しの不満を込めてそう言うと、彼はの土産を整理しながらしばらく黙っていた。
じっと待つ。彼は喋るのが苦手だから、きっと今、返事を考えてくれている最中だ。
「ああ・・・」
長い沈黙に居心地がどうにも悪くなった頃、ようやくウォレンは口を開いた。

「・・・お前が来るのは嬉しいが、お前が帰るのは寂しい」

「え、ええ・・・」
言われていることがストレートすぎて、はそわそわと下を向いた。
「おれがお前に会いに行ったら、寂しいと感じて帰れなくなるかもしれないと思うとな・・・」

ぽわん、と熱を持った頬を、慌てて両手で押さえる。
ああ。なんて、かわいい人。
大切な相手と別れることが寂しいんだ、とかつてそう言った彼は、自分との別れを「寂しい」と感じてくれているらしい。
「そうね、そうだったわ・・・」
は落とした視線をにこりと上げて、こんなにも、ある種スゴイことを言っているにも関わらず無表情なままのウォレンに笑いかけた。
「だったら、私が何度でも会いに来るから。楽しみに待っててね」
「そうだな・・・」
彼が答えて小さく笑う。
無表情な彼の、時折見せる他の表情が「笑顔」で良かった。
それが嬉しくて幸せな微笑みを零す彼女を、ウォレンは穏やかに眺めていた。