アーシェラの墓前にそっと花を捧げ、静かに祈りを終えると、既にエッツェルは少し離れた場所でどこか遠くを見ていた。
「お待たせしました」
声をかけてみたが、彼は「ああ」と答えたきり動かない。空を見ているのだと、は思った。
また、天国のことを考えているのだろうか。
それ以上話しかけることは出来ずに、ただぼんやりと待っていると、やがて彼はゆったりとこちらを向いた。

「悪い。待たせたな」
「いえ」
どこか晴れやかなその表情に、安堵する。
「少しな、考えてた」
彼は、髪が伸びた。長い間会っていなかったことを実感できるぐらいの長さだ。
「あの戦争が終わって、おれは旅を続けた。あいつを探して」
「ええ・・・」
「何度か、本当にあいつの元に行きたいと思ったよ。けどな、そのたびに、あんたがおれを叱るんだ」
「私・・・ですか?」
「ああ」
可笑しそうにエッツェルが笑う。何故笑われているのか、イマイチわからないけれど、彼が笑っているというそれだけで、は安心出来た。
いつも死を纏っていた彼に比べれば、どんな理由だって、このように楽しそうに笑ってくれる彼で居て欲しい。
「何故だろうな。あんたを思い出すといつも、泣きそうか、そうでなきゃ怒ってた」
私はそんなにエッツェル殿にきつく当たってばかりだっただろうかと、は思い返してみたが、そんなことは無いはずだ。
「だから、あんたの笑顔が見たくて、戻ってきたんだ」

彼の声は穏やかで、表情も穏やかで、だから、笑うことぐらい、いくらでも。そう思ったのに、なんだかうまくいかなかった。
「良ければ、の傍に居させて欲しい。おれはきっと、を探してたんだ」
「私、は・・・」
笑顔を見せてあげたいと願うのに、涙しか出てこない。
続く言葉が出て来なくて、はただこくこくと何度も頷いた。

エッツェルはそれを確認して微笑むと、アーシェラの指輪を銀の鎖に通し、墓にかけた。
暖かな陽射しが指輪に反射してきらきらと輝いて、祝福の光のように、零れ落ちる涙を照らす。
アーシェラがようやく笑ってくれたように思えて、彼もふっと息をつき、を傍に引き寄せると、その髪を優しく撫でた。