、焼けたわ」
「はっ、はい!こちらも今・・・」
王妃の言葉に、は慌てて『失敗作』を処分した。
おかしい。言われた通りに淹れたはずのお茶が、鋼の味だなんて。
シーダの焼いたケーキの良い匂い。
早く食べてみたくてウズウズしながら、ももう一度紅茶に挑戦する。しかし。
「あ」
たった一言の小さな呟きに、シーダは切り分けたケーキを手に振り返って優雅に尋ねた。
「どうしたの?
「あ、いえ。その・・・一度失敗してしまって、木イチゴが足りなくなってしまったようです・・・すみません」
せっかくシーダの勧めてくれた苺紅茶が、作れなくなってしまった。
しゅん、とうなだれたに、シーダは手に持った皿を台に置いてあっけらかんと笑った。
「あら、そんなこと。じゃあ今から取りに行きましょうよ。ね?」
「えっ、今からって・・・」
「大丈夫。マルス様がいらっしゃるまでもう少しかかるし、ペガサスならすぐよ」
「しかし、いくらなんでも王妃が急に外出だなんて」
もう出かける気満々でうきうきとした瞳をしているが、予定外の外出で王妃に何か危険でもあったらと思うと、全力で止める事しか出来ない。そもそも木イチゴが足りなくなったのはのせいなのだから、必要ならば自分が取ってくる。
そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか・・・いや、きっと知っているのだろう。
シーダはにっこりとほほえんだ。
「マルス王の近衛騎士が同行してくれるから大丈夫よ。・・・相変わらずお転婆でごめんなさい、ね?」
「・・・う・・・」
その笑顔に、「反対し続ける」という選択肢は潰えた。
自分はマルス王の近衛騎士なのだから。
当然シーダ王妃をお護りするという使命もある。
・・・本当は、ここで王妃を諭す、という役割もあるのかもしれないが、それはもっと年上の、しっかりした皆様にお任せしよう。
「わかりました・・・。シーダ様は、私が命に代えてもお護りいたします」
「ふふっ、頼りにしてるわね」
シーダは早速部屋を出ようと扉に手をかけた。
そこはが先に扉を開けたいのだが、未だにシーダの行動力に敵わないところがあるのは、どうにかしなくてはと思う。
そこで彼女は一度手を止めて、振り返った。
青い髪によく映える、薄水色のドレス。このままペガサスに乗る気だろうか。
・・・乗る気なんだろう。
このまま山で木イチゴを摘む気なんだろうか。
・・・摘む気なんだろう。
着替えてくださいと言ったところで、軽くあしらわれる。いつものことだ。
お転婆でどこか奔放ながら、優しく美しく、皆から愛される王妃。
もちろんも、シーダのことが本当に、大好きで。
、ありがとう。わたし毎日幸せよ」
とびっきりの笑顔で、そんなことを言われてしまっては、もう何ひとつ言い返せない。
「私もです。・・・さあ、ジェイガン様に見つからないように急ぎましょう」
「そうね」
シーダは扉を開けて、ドレスのまま走り出す。も慌てて王妃を追いかけた。

中庭を挟んだ窓の向こう、執務室の扉が開いてマルスとジェイガン、カインが出てくるのが見えたが、戻ってきたら叱られるかしらと思いながらも、シーダを止める気にはならない。
彼女がドレスのままペガサスに乗るのに気付いたのだろう、カインがびっくりした顔でこちらを見ていたが、がついているのを見てそっと視線を逸らしてくれた。
ペガサスの真っ白な羽根がはらはらと舞って、二人は蒼い空に向けて勢いよく飛び立った。