大きな笑い声が巻き起こって、リフはちらりとそちらに視線を向けた。
こどもたちはを囲んで派手に走り回っていて、彼女も負けずとこどもたちを追いまわしている。
「にぎやかだなあ・・・」
せっせと掃除を続けるダロスが呟いて、リフは飲みかけのお茶を机に置いて頷いた。
「楽しそうで良いことです」
「ほんとになあ。・・・羨ましいよ」
「おや、ダロス殿と遊ぶこどもたちも、あれに負けないぐらい楽しそうですよ」
「あれはおいら自身じゃなくて、おいらの船が楽しいんだろ?」
そろそろ磨かれている床がつやつやと輝いてきたので、ダロスは一度雑巾をバケツに放りこんで、新しい雑巾を持ち出した。
「いいえ。ダロス殿も自信をお持ちください。海へはもともとよく遊びに出ておりましたが、あなたが遊んでくださるようになってからは、行きたがる頻度が倍増しておりますよ」
「はは、そうか・・・おいらでもこんな生き方が出来るんだな。・・・嬉しいよ」
「それに、あなたが来てくださるようになってから、こどもたちだけでなく、私も大変助かっております」
リフ自身はまだ、アリティアの見習い騎士訓練を手伝うほどには元気だが、彼の建てたこの修道院には、今のところリフ以外の修道士がいない。
終戦後は時々、やノルンが様子を見に来てくれてはいるが、もう少し人手があったほうが自分に何かあった折にこどもたちも安心だと思う。
ダロスは修道士では無いが――
「ダロス殿は、修道士になるおつもりはありませんかな」
「えっ、おいらが?」
「ええ」
「難しそうだなあ・・・」
「何も、難しいことはございません。修道士とは、こころがけひとつ。あなたには十分その素質がありますよ」
そこでバタンと豪快に扉が開かれて、こどもたちとが修道院へ戻ってきた。
わあーっ、と大勢のこどもたちがリフとダロスの周囲に駆け寄ってくる。
「ダロス、ここに住んでくれるの?」
「リフさま、ダロスも杖を振るのー?」
彼らの疑問にリフは頷きはせず、けれどこどもたちを窘める。
「これ。ダロスさんとお呼びするのです」
「でも、杖を振るようになったら、ダロスさまだね!」
小さな女の子が、楽しそうに笑った。周囲のこどもたちもつられて笑った。
も笑った。ダロスさま、良いと思う。
「でもリフ殿、ダロスさんの頭を丸めることは出来ませんね」
既にスキンヘッドなのだから。そうくすくすと笑うと、リフは真面目にに向き直ってにっこりとほほえんだ。
「そういえば殿、また髪が伸びてきましたな。・・・良ければ丸めて差し上げますが」
「い、いいえっ、ええと、伸ばしているので!」
とっさに後ずさってふるふると激しく首を横に振ると、彼はやはり以前のように、「そうですか」と少しだけ残念そうに、けれどすぐに引き下がる。
が助けを求めるようにダロスに目を向けると、彼はの代わりに大きく頷いた。
「じゃあおいら、丸めてもらおうかな」
「え?じゃあダロスさん・・・」
修道士になるの?と続く前に、ダロスが「いや」と否定する。
「それはまだ、考えてない。おいらはもっと、罪を償わなきゃならないから。でもいつか、ここでみんなと暮らしていけたらいいと思うよ」
こどもたちは本当に彼を好きなのだろう。わあっと飛び上がって喜ぶ子や、駆け寄って抱きつく子もいて、その様子が幸せそうでは嬉しくなった。

リフがいそいそと立ち上がる。
「それでは丸めましょうか。すぐに終わりますよ」
そりゃ終わるわよね・・・髪、無いし。
のこころの中の呟きは、リフには届かない。
いざ丸めてもらおうとトレードマークの白いバンダナを取ったダロスの頭を前にして、大きな落胆のため息がリフの口から零れたけれど、だからといって代わりにが頭を差し出すことは無かった。