こどもたちの相手をしながら笑顔を振りまく彼女は、王女のプライドなど微塵も感じさせない。
おねえちゃん、と呼ばれればそちらへ走り、こどもたちと共に朗らかに笑う。
泣きだすこどもがいれば、抱きしめて慰めて、また楽しそうに笑いだす。
「本当に、お会いしないのですか?」
返ってくる答えはわかりきっていたが、それでもは尋ねた。
「言っただろう。声をかける気はない」
燃えるような緋色の髪も、今は目立たないようにフードの中だ。
ミシェイルは、ただ腕を組んで、静かにマリアを眺めている。
「しかしマリア王女は・・・」
兄に会いたいだろう。話したいだろう。
なおも食い下がろうとするに、ミシェイルは少し笑った。
「やはりお前は、ミネルバに似ているな」
「え・・・?」
どこが、とか何が、とか、そういうことは一切言わずに、彼はすっと身を翻した。
「あ、あの、もう行ってしまわれるのですか?」
「ああ。俺にはまだやることがある」
マリアはちょうど、こどもたちを集めて修道院の中へと誘導しているところだ。
兄と同じ緋色の髪が、さらさらと風に揺れている。
「・・・お前には言っておこう。俺は必ず、戻ってくる」
どこへ行って何をするのか、には見当もつかない。が、その言葉にはしっかりと頷いた。
ミシェイルの瞳が、僅かだけ優しげな光を見せた。
「ミネルバとの約束だからな。その時には、マリアとも会うと」
「そう・・・でしたか。わかりました。どうか、早くお戻りになってさし上げてください」
「お前がマルス王の近衛騎士でなければ、俺と共に連れて行くのだがな」
「もったいないお言葉」
さらりと答えるに、ミシェイルは苦笑した。
しかし、それ以上のことは告げられない。最後に一つ、口にした。
「妹たちを、頼む」
「はい」
こどもたちが全員修道院へと入ってしまい、自身も中へ入って扉を閉めようとしたマリアが、ふと高い空を見上げた。
はただじっと、空を見つめて長く細い息を吐いていた。
飛竜がさあっと、上空を飛んでいく。
手の届かないところへ行ってしまうのだと、は胸のあたりをぎゅっと握りしめた。