「わあ、さん!ほんとに来てくれたんですね」
嬉しいな、とライアンははにかんだ。
見習いの頃からの付き合いで、弟のような、本当に可愛い存在。
行軍中からずっと彼は、を家に招待してくれていた。
「でも少し悔しいな。ぼくじゃなくて、兄さんと一緒にっていうのが」
「ライアンと約束したから、お邪魔しようって思えたのよ」
「そうですか?」
彼は、本当に嬉しそうに笑う。
「あっ、そうだ。前に言ってた本、あげますよ」
ライアンは本棚から一冊の料理本を引っ張りだしてきた。
「ぼくが使っていたものだから、そんなに難しくないと思います」
「ライアンが?・・・もしかして、料理、得意?」
「いえ、得意という程では・・・ロディさんの方が全然上手ですよ。あ、でも今日はぼくが夕飯の用意しました。たくさん食べてください!」
一生懸命な彼にありがとう、と笑って、は受け取った料理本をじっと見つめた。
はじめての家庭料理、と書かれている。ライアンが料理を始めてから使い始めたにしては、少し古く見えた。
「これ、ライアンの本なの?」
「もとは兄さんの本です。家を出る時にもらいました」
「ゴードン殿・・・も、料理上手なの?」
の問いかけにライアンは、あはは・・・と曖昧に笑った。
「ええと、そうでもないです・・・」
弓ではまだ勝てないですけど、料理ならぼくの方が、と控え目に、けれどきっぱりと答える。
その答えに、はほっとする。ほっとしてから、二人とも料理できないんじゃ困るかしらと考えて、それから(二人とも、って!?)と自分で勝手に照れた。
落ち着いてから彼女はもう一度、「はじめての家庭料理」を抱え直した。
ゴードンが昔から使っていた本と聞くと、この本をもらったことがますます嬉しく感じられる。
そんな彼女を黙って眺めていたライアンは、笑顔で本を抱きしめ直したに向けて、やがてぽつりと呟いた。
「・・・やっぱりその本、あげるのはやめようかな・・・」
「えっ、どうして?あ、まだ必要だった?それなら返すから、無理しなくていいのよ」
残念だなんて、かけらも表情には出さずに本を返そうとする
ライアンは、ぷっと笑って首を振った。
「冗談です。どうぞ持って行ってください」
「そう・・・?ありがとう、ライアン」
この人に微笑んでもらえるのなら。本の1冊や2冊や3冊や・・・とにかくそれぐらいいくらでも差し出すけれど。その笑顔の原因が、自分の大好きな、尊敬する兄であると思うと、少年のこころは複雑すぎて。
大好きな人が二人も側にいてくれる、そのことを純粋に喜べるほどには既に幼くはない。
しかしだからと言って、いつか大好きな兄から、大好きなひとを奪おうと思えるほどに大人でもない。
今はせめてたくさん彼女に笑ってもらえるように、ただ素直な弟でいよう。
そう考えて、けれどこんなことを考えているうちは兄さんには勝てないんだろうなと、ライアンはに隠れてこっそりとため息をついた。
それでも兄さんのことが大好きなんだからしょうがないよね、と思いながら。