ひらひら。
くるくる。ひらひら。ふわり。

魅力的な笑顔と、長い櫻色の髪と、それから軽やかな踊り。
久々に見るフィーナの踊りは、旅の疲れをあっという間に癒してくれる。
(ああいうの、少しは教えてもらえば良かったかも・・・?)
マリスに教わった剣舞が、僅かながらサマになったことを考えると、チャレンジすれば踊りも僅かぐらいは出来るんじゃないだろうか、などとポジティブな考えまで浮かんでくる。
そんなに向かって、フィーナは舞台からひらひらっと手を振って投げキッス。
おかげで周囲が「誰にだ!?」「俺だ!」「いや俺だろ!」などとざわめいて大騒ぎになってしまった。



「え、お金?」
「そうよ。報酬、受け取らずに行っちゃうんだもの。フィーナにもたくさん、助けてもらったから」
マルスから預かってきた報酬をドンと渡すと、彼女は少し躊躇して、それからその中を覗いた。
「え、ええええ!?無理無理!こんなにいらないわ!」
「そう言われても・・・困ったわね」
「ね、ほら、あの人、えーと、カシムさんにでもあげたらいいじゃない。ね?」
あまりの大金に半分怯えてすらいるフィーナに、は少し考えて、事実を告げることにした。
「実はこれ、2人分なのよ」
「2人って・・・」
もう一人に、心当たりがある表情で、彼女は困惑を強めた。
「ナバール殿が、自分の分はあなたに、って・・・」
やっぱりね、とフィーナは笑う。それは決して嬉しい笑顔では無かったけれど。

ナバールに置いて行かれたのは、数か月前のこと。
近くに危険な戦場があるから迂回するように、と話を聞いたばかりだったから、きっとそこへ行ったのだろう。
何があっても追いかけてやるわ、と意気込んでいたフィーナは、村人に留められて彼を追うことは出来ず。
今思えばあれは、ナバールたちの最後の気遣い、だったのかもしれない。



「優しくするなら、直接すればいいのに。シャイなんだからっ!」
急にぐっと拳を握って力説するフィーナに、は驚いて一歩引いた。
「ちょっと!ねえあなたもそう思うでしょ?」
「え、あ、そうね?」
「だいたい、わたしの恩返しは終わってないのに、さらに恩を売ってどうするつもりなの!」
「あ、そ、そうね?」
「ちょっと、ちゃんと聞いてよ」
「だって急に大声を出すんだもの。びっくりするわよ」
フィーナはそのままもう一度ベッドに腰掛けて、それから机の上の袋に片手を突っ込んだ。
再び出してきた手には、一握りの金貨。
「ねえ。マルス様に伝えてくれる?」
「ええ、何でも伝えるわ」
ようやく落ち着いた彼女に安心して、も隣に腰かけた。
「わたし、報酬はこれだけいただくわ。これでも結構人気があるのよ、わたしの踊り。そんなにお金には困って無いから。だから、残りは全部、この大陸の為に使ってくれないかしら」
「・・・本当にいいの?」
「ええ、もちろん。国にとっては少ないお金なのかもしれないけど。いつか、戦いがなくなって、ナバールさんも剣を握る場所がなくなったら」
フィーナはに向けてにっこりと笑った。
「そしたらわたしの恩返しも、もっと早く出来るわ」

あーあ、この笑顔にどきどきしないなんて、もったいないと思わない?
フィーナがそう言ってベッドに倒れ込んだので、は今度はしっかりと、
「本当にそうね。そう思うわ」
そう答えて、この可愛らしい友人の想い人を、心の中で軽く責めた。