「おっと・・・」
チャリンチャリンと、小銭のばら撒かれる音がすると同時に、マリスは手に持った剣でサッと数枚を拾い上げた。
しかし1枚だけ、拾い損ねて遠くへと転がって行く。
それはすっとしゃがみこんだ女性に拾われて、そこで二人は微笑み合った。
「商売はどう?」
「まあまあかな。随分と久しぶりじゃないか、
「結構、忙しくて」
久々の再会だというのに、感動的なものは何もない。
二人はそれが自然なことのように、特別な態度を見せることも無く話し始めた。
「剣舞もまだ、続けてるんですって?」
「ああ。親父が相変わらずだからな。かといって、店の金は渡せないだろ」
「そうね」
武器屋を営みながら、父親の賭博の為に別に金も稼ぐ。
まったく感心するバイタリティだと、は褒めた。マリスはもう褒められることに怒ったりはしない。

「おお、じゃねえか」
久しぶりだな、と豪快に笑いながら、噂の父親が店に入ってきた。
「お久しぶりです、ダイス殿」
「なんだ、俺と賭けでもしに来たか?」
「まさか」
さっくり断られても、特に気分を害した様子もなくダイスは笑った。
「そうだろうな。俺も今は、掛けるモンがねぇ」
それを聞いてマリスがまたか、と呟いた。ちょうど、賭博で負けて帰ってきたところなのだろう。
そんなことよりよ、と彼は店内の椅子にどっかりと腰を下ろすとに向き直り、娘を指差した。
「こいつ、結婚はしねえ、って言うんだ。どう思うよ」
そういえば軍を離れる時に、「娘の花嫁姿が見たい」なんてことも言っていたな、とは思い返した。
「好きなヤツも居ねえのに、結婚なんて興味ねえよ」
「それは、しょうがないですね」
相手がいないんじゃ、どうしようもない。
しかしダイスは食い下がった。
「なあ、ちょっといい男を紹介してやってくれよ。お前さんの彼氏よ、友達ぐらいいるんだろ。いいじゃねえか。今流行りだぞ、ダブルデートってのか?」
「は・・・ええっ?」
矛先が向いたので、が慌ててふるふると首を振る。
「そんなアテ無いです!」
「アリティアには、山ほど男がいるじゃねえか」
「そんな、そういうのはマリスの気持ちが大事なんじゃ」
「気持ちも何も、まずは出会いが無いとしょうがねえだろ」
そりゃもっともな言い分なのだが、それにしたって、こんなことで頼られるのは困る。
助けを求めてマリスをちらっと見ると、彼女は平然と売り物の剣を手入れしているところだった。
「親父は誰にでもそんなこと言ってんだ。本気にすんなよ
娘にさらりとそう言われて、ダイスはがくりと肩を落とした。
「俺は本気なんだがなあ」
本気だったら、まずは賭博を控えれば良いのに、とは口に出さなかった。

その代わり。
「ねえマリス。今度私と、街に出ない?あなたと行ってみたいお店があるの。甘いもの、好きだったわよね」
「ああ、いいぜ。いつでも誘えよ」
デートではないけれど。
ダイスの言葉を聞いて、マリスと二人で遊びに出るのも楽しそうだと思い至ったは、彼女の了承を受けて素直に喜んだ。一緒にケーキを食べて、服を見たり、なんていう女の子同士のやり取りに、だって少し興味があるのだ。
まずはそこから、で良いわよね。

次の約束を心から楽しみに、彼女はマリスの武器屋をあとにした。