!来てくれて嬉しいわ」
「ミディア殿、お変わりなくて何よりです」

アカネイア自由騎士団。盗賊から人々を守る戦士たちの集まり。
弓騎士ジョルジュの作り上げたそこには、かつての仲間たちが多くいる。もちろんミディアもその中の1人だ。
はと言えば、ミディアのことはもちろん好きだが、ただ少し苦手ではあった。
何故か。
それはきっとが、まだ「愛する」ということをよく分かっていないからなのだろう。
マルス様に一生を捧げる騎士である自分に、「愛」は必要なのか?
その問いに答えることも出来ないのに、ミディアは「愛」を推奨してくる。それは人間として必要なものだと。
そう言われればそんな気もするから困る。
そうして困りながらもミディアの話を丁寧に聞いていたが、今回ミディアを訪ねたのには理由があった。



「その、あの・・・ええと」
どう切り出そうか。どうしてここに来るまでにきちんと考えておかなかったのか、自分が嫌になる。
ミディアはわざわざ紅茶を淹れてくれて、その手つきや、部屋の中を動く慣れた様子が、人妻らしい、というと語弊があるかもしれないが、とにかくますます美しくなったな、と思わせる。
彼女は静かに二つのカップを置くと、自分もの向かいに腰かけた。
「恋をしたの?」
言い淀むに微笑みかけて、ズバリと一言。
は慌てて、危うく紅茶のカップをひっくり返すところだった。
「ど、どうして・・・」
「あら、あなたが自分から私のところへ来るなんて。それぐらいかしらと思って。当たり?」
「ええ・・・そうです」
しょうがない。覚悟を決めて頷く。そもそも自分から言おうとしていたことなのだ。むしろ相手が察してくれて助かった。
「それで、ミディア殿にお聞きしたいのです。私は、マルス様に一生を捧げる騎士でありたいと、今でも思っています。その願いの為には、その・・・相手の方と共に生きることは出来ません。それでも恋なのでしょうか?」
「一緒に来てほしいと、言われたの?」
「いえ、そのようなことは・・・」
はそっと首を振った。
ミディアはそれも分かっていたように、深く頷いて微笑む。
「ねえ。あなた、その人といて幸せ?その人のことを考えていて、幸せ?」
あなたの恋が、どうか幸せであるように。
そう祈ってくれた、いつかのミディアの穏やかな横顔を思い出す。
「幸せ・・・なのでしょうか。心苦しいと思う時もあります」
そうなのね、と彼女は笑った。

ミディアは、柔らかくなった。
いや、きっと以前から、アストリアと居る時の彼女はそうだったのだろうけれど。
愛する人と共に生きるということはこのように幸せなことなのかと、幸せを体現しているようなミディアを見ていると、なんだか自分の恋が偽物であるような錯覚に陥って、は小さくため息をついた。
しかしミディアは、すべて見通したような穏やかな微笑みと共に口を開いた。
「大丈夫だわ。あなたはきっと、「愛すること」を知るでしょう。そうすれば、たとえばマルス様のことだって、もっと深くわかってさし上げられるようになるわ」
「マルス様のことも?」
「ええ、だって。マルス様とシーダ様は、それはそれは幸せな愛に包まれているのだから」
確かに、とは神妙に頷いた。
「それにね」

きっと、ミディアからなら聞けると思った。
欲しかったのは、その言葉だったのかもしれない。


「一緒にいることだけが、『共に生きる』ということでは無いわ」


彼はきっと、もう分かっていることよ。
そう言ってミディアが武器を構える振りをする。
それを見て、ああ相手のことまで全部バレてるんだわ、とは悟った。

「ただいまミディア」
扉が開いて、夫――アストリアが顔を見せる。
「おかえりなさい」とそれを迎えるミディアを見て、それでも「傍に居る」ということにも大きな意味があるのだろうなと、はそっと目を閉じて、恋の相手を思い浮かべた。