ビラクは笑って、戸口に向けて手招きした。
「待たせた」
ザガロがすたすたと歩み寄ってきて、に軽く会釈してから椅子にかける。
「ロシェ殿には、先にお会いしてきました」
「ああ、あいつはもう戦わない方がいい」
「ウルフ殿は・・・」
かつての狼騎士団長の居場所を尋ねれば、二人とも小さく首を振るのみだ。
早速酒を注文し、ザガロはごくりとそれを飲み込む。
「ま、生きてるのは確かだから、いいさ」
戦場で会うことはあるらしい。彼は一人で納得したように頷いてビラクに目をやった。
「とにかく、狼騎士団を認めてもらえることには感謝する。本当ならウルフなんだが・・・」
「今更あいつは団長にはならないだろうな」

アカネイアに、自由騎士団が設立されたように。
オレルアンの復興の為、マルスは狼騎士団にオレルアン守備の任を頼みたいと使者を出した。
その呼びかけに応えたのがビラクとザガロだ。
彼らと直接話をするためにオレルアンを訪れたを、二人は歓迎してくれた。

「ビラク、お前がやってくれ」
「何?」
まるで考えていなかったらしいビラクが、怪訝な表情でザガロを見やる。
も、この発言は少し意外であった。
「普通そこは、元副長だろう」
「俺には向かん。俺は誰かの補佐の方が性に合う」
殿はどう思う」
急に話を振られて戸惑ったものの、短いながら一緒に戦った時のことを思い出してみる。
ウルフの為にあらゆる武器を扱ってきたザガロと、ひとりで戦うよりも誰かとともに駆ける方が遥かに力を発揮できるビラク。組めば良いコンビとなる気がする。
「ビラク殿、良いのではないでしょうか」
「そうか・・・団員たちが反対しなければ、そうするか」
彼は大きく頷くと、ザガロと同じ酒をさらに追加した。
ザガロは飲み干したグラスを置いて、にやりと笑う。
「あいつは孤高だったが、人を惹きつける力があった。あの後が、地味な俺などでは」
「ザガロ・・・そんな理由なのか?」
それなら俺だって、と言うビラクに、しかしザガロは
「お前はある意味、あいつ以上に存在感抜群だよ」
そう言って肩を叩くのだった。

殿、狼騎士団はマルス王に助力を惜しまないと伝えてくれ。ウルフやロシェとは違う道だが、みなハーディン様の理想の為に生きていることに変わりは無い。俺とザガロは、狼騎士団としてオレルアンで戦う」
「ありがとうございます。確かにお伝えします」
三人は散々飲んだ後のグラスをカチンと合わせた。
ハーディンと、四人の配下。
彼らの道は別れてしまったけれど。
「・・・皆、同じ場所を目指してるんだ。いつか交わるさ」
呟いて、ザガロは再びいっぱいのグラスから酒を一気に飲み干した。
二人に諦めや絶望の色は見えない。信じているのだ。再び道の交わる時を。
「そうですね。私も微力ながらお手伝いいたします」
ハーディン皇帝、ではなくて。
彼らと共に駆けた「草原の狼」ハーディン公が望んだという、オレルアンの未来。
その志はきっと、マルス王が受け継いでいる。
は二人と共に新たな酒をグラスに注ぎ、琥珀色のそれを、ザガロを真似て一気に飲み干した。