「好きな人?いるわよ」
リンダは顔色ひとつ変えることなくさらりと答えた。
「あ、そうなのね。・・・魔道学院の人?」
「いいえ。ふふ、これ以上は秘密」
おしゃべりに気を散らしていては、整わない山道では足を踏みはずしかねない。
リンダは至極真面目な顔で、木の枝をかきわけながらどんどんと奥へ入っていく。
「ねえ、こっちにイチゴがあるわよ」
「あ、本当。少し摘んで食べてもいい?」
「じゃあ休憩にしましょうか」
の示した岩に腰を下ろして、2人は摘みたてのイチゴを口にした。
「ん〜、甘いわ。うん、こういうの、いいわね。楽しい。今度生徒たちを連れてこようかしら」
優雅に微笑む表情とは裏腹に、かなりのペースでリンダの胃におさめられていくイチゴたち。
その様子を見ながらはのんびりと呟いた。
「いいかもしれないわね。魔道士だって、体力勝負でしょ」
「まあ、そうね」
かごに入ったイチゴは無くなったが、リンダは手近になっているイチゴを摘んではそのまま口に放り込んでいく。隣でがぼんやりしているのを見て、彼女はもぐもぐと口を動かしながら尋ねた。
「ねえ、どうして好きな人がいるなんて思ったの?」
「え?そうね・・・。なんだかあなた、綺麗になったわ。大人っぽくなったというか・・・」
「そうなの?ま、そういう年頃なんじゃない?」
バッサリとそう切り捨てて、呆気に取られているに笑いかける。
「それに、そんなこと言うならだってそうよ」
恋してるって感じだわ、と人差指をぴっと立てて、それからまた2つまとめてイチゴを口に詰め込んだ。
さらに2つのイチゴをにまとめて渡す。は一つずつゆっくりと噛みしめていく。
その様子を眺めながら、リンダはようやく満足したように空っぽのかごを手放して、空を見上げた。
「家族が出来るといいわよね・・・。あなたも、わたしも」
「か、家族?私は、そこまでは・・・」
家族になるということは結婚するということで、自分はアリティアに生涯を捧げるつもりで、ああでもマルス様の御子と私の子が仲良くなって欲しいと言っていたから、やっぱり結婚ぐらいは、でもやっぱり。
先の先のことまで想像して慌てるの口に、リンダは無理やりもう一粒、イチゴを放りこんだ。
「いいのよ。そんなに色々考えなくても。きっと、こういうのは、もっとずっと簡単なことなんだわ」
呟いて、けれどリンダはニーナのことを考えていた。報われなかった、苦しい恋。
今はどこにいらっしゃるのかも分からないけれど、やっと自由になれたのだから、どうかしあわせに生きていて欲しい。
それから、彼女の言葉にビックリして口がすっかりお休みしてしまっている親友を見て。
どうか、あなたもわたしも、しあわせに生きていけますように。
何に祈るかしばらく考えてから、目の前のイチゴに祈って、それを一口で飲みこんで笑った。
その笑顔は、あまりに魅力的で。
「・・・なに赤くなってるの?」
「だって、あなた・・・やっぱり綺麗になったわ」
「そうかしら?に言われると嬉しいわね。さ、もっと食べるわよ!」
「え!まだ食べるの!?」
元気に再びザクザクと歩き出したリンダを、は慌てて追いかけていった。