「本当に、綺麗・・・」
そう言ったきり、は立ち尽くしてしまった。
彼を探して何日も、草原を駈け巡った末の、花畑。見渡す限りのカラフルに、ため息をひとつ。
会えるあても無いのに来てしまったオレルアンで。
彼が、そしてハーディン皇帝が愛したという、緑の大地。
その美しさには、言葉もない。
戦いが終わったらこの美しい故郷を見せてくれると言った孤高の戦士は、しかしマルス王の近衛騎士として日々忙しく働くが束縛できる相手では無かった。
彼は1人故郷へ戻り、ようやくに余裕が出来た頃には、「ウルフは激しい戦いを求めて各地を彷徨っている」という話を元狼騎士団の同僚たちから聞くことが出来ただけで、本人の居場所は掴めなかった。
だから、勝手に来たのだ。どうしても見たかった、彼の愛するオレルアンの草原を見るために。
「ここが、そうなのね」
本当に、美しいだろう?
彼の声が聞こえた気がして、風の吹いた方を振り返る。
けれどそこには誰も居なくて。
「こんなに美しい草原を愛したというハーディン皇帝・・・きっと、とてもお優しい方だったのですね」
目を閉じて、はハーディンのことを思い祈った。
そうした方が、ウルフが喜ぶだろうと思った。
ウルフ自身も勿論、この大地を愛する、こころ優しい青年なのだろう。
けれど、今はまだ。
「いつか、私をもう一度ここへ連れて来てください」
空も花も風も大地も、すべてがきっと、彼に伝えてくれるはず。私がここに立ったこと。
私の祈りを。
(だから、どうか、生きていて)
きっと、自分で二度は同じ場所に来ることが出来ないだろう。
だから必ず、彼に連れて来てもらおう。
ざっと、大きく風が通った。
はもう振り向かなかった。