見た目も生き方も戦い方も、すべてが豪快に見えるけれど、は彼がただ凪いだ海のように穏やかであることを知っている。
「バーツさん!」
日に焼けた青い髪は、確かに自分の良く知る男だと判断して2階から大声で呼びかけると、まるで毎日会っている友人であるかのように距離を感じない笑顔で彼はこちらを仰ぎ見た。
「今度は何をなさってるんですか?」
騎士としてただ一本の道を歩む自分を後悔することは無いが、バーツの生き方には興味があった。人生に、無駄なことなど一つもない。
自分が歩めない道を、彼を通して見るのは、不思議と心地が良かった。
「ああ、今回か。・・・詳しくは話せねえがまあ、お嬢様の護衛、だな」
「護衛・・・」
目の前の一見豪快な男と「お嬢様」という取り合わせは、道中がイマイチ想像出来ないが、きっとバーツのことだ。うまくやっているのだろう。
そんなことを考えて微笑んだが、ふと階下を見下ろした彼が、ちっ、と軽く舌打ちをする。
それから「悪い、また今度な!」と言うが早いか、少ない荷物を抱えて駆け下りて行ってしまった。
急展開に驚きながらも、それもまた彼らしいとも階下を覗く。
つい今まで目の前にいたはずの男は、ちょうど路地でフードの女性を捕まえたところだった。
あれが「お嬢様」だろうか。
何の気なしにそれを眺めていただったが、その女性の横顔がちらりと見えて、息を飲む。
「・・・っ!」
――――ニーナ王妃!?
バーツは彼女にフードをかぶせ直し、そのまま二人は立ち去って行った。
姿を消した王妃。シリウスを追って行ったかと思っていたが。
「良かった・・・生きていらしたのね」
シリウスは、彼女と共に行く気は無いようだった。
それなのに、あれだけ国民から顔を知られているニーナ王妃が。
何を持ち出した形跡もなく、恐らくは金品もほとんど持たず、着の身着のまま出て行ってしまっただろうと言われていた彼女に目撃情報の一つも無かったことで、マルスたちは最悪の事態も想定して心配していたのだが。
バーツに保護されていたのなら、きっと大丈夫だ。
「お嬢様の護衛・・・ね」
大変そうね、とは思うが、やはり彼のことだ。うまくやっているのだろう。
バーツならいつか、ニーナ王妃が新たな道を見つけるための標になってくれるに違いない。
次にあの日に焼けた青い髪を目にする時には、まったく違う生き方を試しているのだろうなと、はそれを楽しみに、窓をぱたりと閉じた。