あなたが嫌でなければ、私の誕生日をあなたと一緒に祝ってくれないかしら。
そう約束してカタリナを抱きしめた、あの日から1年が経った。
「とても、楽しかったですけど・・・少し飲み過ぎてしまいました・・・」
ふらふらとおぼつかない足取りで歩くカタリナを時折支えながら、自身もつまづきかけたりしつつ歩く。
「こんなにたくさんの人に、誕生日を祝っていただけるなんて、本当に幸せです」
カタリナの言葉に、酔っ払いのは「そうねー」と軽く頷いて笑った。
聞いているのかいないのかわからない彼女に向けて、カタリナは半泣きで語り続ける。
「私、本当に、あなたと一緒にいて、幸せなことばかり・・・今日の思い出も、大切に大切にとっておきます」
「えー?」
すた、と立ち止まると、はカタリナを引き留めて真摯な瞳で彼女を見つめた。
「ねえカタリナ。捨てましょう?」
「・・・はい?」
言われている意味がわからずに、首を傾げて見つめ返す。
は迷いのない力強い瞳をしている・・・ように見える。
酔っているのか、けれどあまりにまっすぐで力のある視線に、カタリナは思わず身構えた。
「今日までの思い出はとっておかなくて良いの!前にも言ったでしょう?」
「は・・・はい、・・・」
「明日から、また幸せな思い出が増えるのに、いつまでもとっておけないわ!しまっておく場所だってなくなっちゃうのよ」
「そんな、あなたの部屋じゃないんですから・・・」
「・・・なあに?」
「あ、いいえ・・・」
やっぱり酔っているのだ。力強い瞳は、よく見ればどっしりと座っている。
こんな風に羽目をはずしたりもするのだなあと、また新たなの一面を見た気がしてカタリナは微笑んだ。
「でも、とっておけるだけとっておきます。もちろん、明日からも幸せな思い出は作りますけど、捨てなくてもまだまだ、私の部屋には入りますから」
「そう?」
「はい。そろそろ戻りましょうか、。私は酔いも醒めてきました。あなたは大丈夫ですか?歩けます?」
尋ねれば、はしっかりとした眼差しで微笑んで頷いた。
「もちろん大丈夫よ。私は酔ったりしていないわ」
再び歩き出した彼女の背を見つめ、今日を一緒に祝えたことに感謝し、これからも一緒にいられるであろうことに感謝して、カタリナはクライネのビーズを優しく握りしめた。
「・・・クライネ、私は幸せです」
「カタリナー!戻りましょう!」
少し離れたところで振り返って、が大声で呼びかけてくる。
本当に、幸せな毎日です。
呟いて、カタリナはすうっと息を吸い込んだ。
「!部屋はそちらではないですが、大丈夫ですか?」
「えっ・・・」
彼女が慌てて戻ってきて、呼吸を整えた。こんな短い距離で息が上がるのは、やはり酔っているのだろうけれど。
「ごっ・・・ごめんなさい。ちょっとやっぱり、酔ってるみたいで、道を間違えてしまったわ」
「それ、酔ってるせいじゃないですよね」
にっこりと笑って、カタリナはの手をきゅっと掴んだ。
「でも酔ってるならしょうがないですから、手を繋いでおきましょう。こちらです」
「ありがとう、カタリナ」
が手を握り返して、二人はゆっくりと正しい道を歩き出した。