「誰だって苦手なものの一つや二つ、あるわよね」
「・・・ええ、そうね」
「でも、やっぱり克服出来るものはした方がいいと思うのよね」
「・・・・・・ええ、そうね」
アリティアの、数少ない女性騎士。
英雄戦争での中心騎士である聖騎士セシルと、表立っての活躍こそ控えているものの、今もマルス王が友として絶大な信頼を置く近衛騎士。
通った後にはペンペン草も生えない、などと部下に揶揄されるほど(おもにセシルが、だが)恐れられている、そんな彼女らだが。
「ねえ、ここを、ペンペン草も生えないぐらいのピッカピカにするには、どうしたらいいかしらね?」
今、セシルの部屋の前で、2人は立ち尽くしていた。
アリティア騎士になってから、何年になるだろう。
自室は荒野とは程遠く、深い樹海のようになってしまい、もう入る気にもなれない。
「・・・ロディに頼んでみたらどうかしら・・・」
の提案に、しかしセシルはふるふるふるっと、ものすごい勢いで首を横に振った。
「だ、ダメよ!ダメダメ!絶対だめ!!!」
「そう?」
「言っておくけど、今あたしが、幽霊の次に怖いものはロディよ」
そこまで言われるとは、一体二人に何があったのか。
それは分からないが、とセシルの二人だけでは片付かないことは火を見るより明らかだ。
「でも、知ってるでしょう?私も片付けるのは苦手で」
カタリナに笑顔で「これは酷いですね」とさらりと言われたり、ロディにため息をつかれたり、ライアンに苦笑されたり、たまに遊びに来るジョルジュとゴードン師弟にさらに散らかされたり。果てはマルスに見なかったフリをされたりしながら、それでも樹海を荒野に戻すことは出来ないでいる。
それでもの部屋がなんとか生活スペースを僅かに確保できているのは、ため息と共に少しだけ片づけを手伝って行ってくれるロディのお蔭なのだ。
「しょうがないわね。じゃ、頑張ってみましょう。せめてベッドに眠れるぐらいは」
「あ、それぐらいなら出来そうね!」
いつもロディがするように、はセシルの部屋の片付けを手伝ってみることにした。
「とりあえず、ベッドの上のものを、下に動かせばいいかしら?」
「あ、そこは触ると危な・・・手遅れね」
「・・・セシル。やっぱりロディに頼みましょうよ・・・」
がらがらと崩れた荷物の下敷きになりながら、早速弱音を吐くに、セシルは力強く告げた。
「大丈夫よ!助け合えば!」
片付けが苦手な人同士が手伝っても、あまり意味がないんじゃないかしら。
そんなことを考えながら、それでもはよいしょ、と立ち上がった。
「・・・歓迎パーティーは、この部屋でしたいわね」
「!べっ・・・別に、そんなつもりじゃ・・・」
ふふ、と小さく笑うと、セシルも諦めたように「そうね」と笑う。
「戻ってきたアイツに、新生セシル様の部屋を見せてやるんだから」
やはり、第七小隊が全員そろうことは、嬉しくてしょうがない。
もうすぐここに戻ってくる、軽いけれども憎めない、緑の髪の青年を思い出して。
セシルとは崩れた荷物の山の真ん中で、声を上げて笑い合った。