トーマスは、村人たちから人気がある。
それはそうだろうな、とは彼にチラリと視線を向けた。
に見られていることなど気にもせず(多分、気付いてもいないのだろう)、自警団を訪れた村人と談笑する彼は、やはり明るく物腰柔らかく、なんだかどこに居ても楽しそうな人ね、と思ってしまう。

「お待たせしました!」
「いいえ、気にしないで」
せっかく彼を訪ねてきたのに長時間放置されたのは、最初は少し不満だったけれど、彼の楽しそうな顔を見ているとそれもどうでもよくなった。なんだかこちらまで楽しくなる笑顔なのだからしょうがない。
に会うのも久しぶりですね。あ、弓の訓練ももちろん欠かしていませんよ!また腕を磨きましたから是非どんぐりの実を・・・ええと、あそこにあったかな?」
「あ、トーマス。訓練はいいわ今日は」
こんなところで死ぬわけにはいかないし、と小さく呟いて、立ち上がるトーマスを押し留める。
「そうですか。人形相手なら百発百中だから、人と訓練して自信をつけたかったんですけど」
相変わらずな彼だが、ここで「それならミシェラン殿とすれば?」などと無責任なことはさすがに言えない。
「あなたのは、人と訓練じゃなくて、『人で訓練』でしょ・・・」
「あはは!そうですね!」

こんな人でも、戦闘中はそれなりに真面目だった。
いや、それなりに真面目、というのは失礼か。本当に、意外なほどに真面目にやっていた。
もちろん命がかかっているのだからといえばそうなのだが、彼が厳しい表情で弓を引くのを見るのは、何故だかどうしようもなく辛かった。

(笑って戦えとは言わないけれど)
なんとも戦いの似合わない人だと思う。
それなのに、終戦後も自警団として、山賊や盗賊などと戦い続けている。
一体どんな顔をして弓を射るのだろう。戦わなくてもいいはずなのに、戦い続ける彼は。

?どうしました?」
急に黙り込んだを、トーマスが不思議そうに気遣う。
たとえばトーマス1人いなくても、弓使いなら他にもいると聞いている。
彼は確かに高い技術を持つ歴戦のスナイパーだが、それでもトムスのように、武器を手放すという選択肢もあっただろう。
「ねえ、トーマスは、戦いを嫌いじゃないの?」
「え?うーん。人を傷つけるのが好きなわけじゃないですが、弓は好きですよ。的がどんぐりで済むものなら、いつでも弓を引きたいです」
トーマスの弓は、いつでも綺麗に手入れされていて、そして彼は暇さえあれば謎の訓練を繰り返している。
好きなことだから上手になっていくのね、とは感心した。
「自警団に入った理由でしたら」
こちらの意図が伝わったのか、彼はにっこり笑って言った。
「私、けっこう頑固なんです。納得できないことには、自分で立ち向かいたいから」

そういえば、ミディアやトムス、ミシェランたちと共に、トーマスもアカネイアパレスで最後まで敵に抵抗し、処刑寸前だったという話をトムスから聞いたこともあった。
あの時は随分と意外に感じたものだが。

「そう・・・そうね」
その力があるなら、民の分まで。
きっと、彼は民の笑顔も大切に思っているのだろう。


はもう「戦いが似合わない」とは思わなかった。
春のひだまりのような彼の笑顔は、戦いの上に鎮座しているものなのだ。
力があるのに民を守ることが出来なかったら、彼の笑顔は本当に曇ってしまう。

彼に、武器を捨てるという選択肢は無いのだな、とようやくは理解した。訓練も、必要なことなのだろう。
どんぐりの実を持って立つのだけはお断りだけれど。