ゆめのはなし





しあわせな夢を見た。

私は夢の中で眠っていて、温かな温度に包まれている。
温かくていつまでも眠っていたくて、起きなくてはと思いながらもその温度にすがると、さらさらと髪に指が通される。
大きな手が私の髪を撫でながら、指通りを楽しんでいる。
絡まってないかな、枝毛とかあるかも、それでなくても農作業だのモンスター退治だので傷みやすいのに。
そんな心配が脳裏を駆け巡るのも束の間。すぐに、撫でられる気持ちの良さに再びうとうとしてしまう。
私を包む温度も香りも覚えのあるもので。
もちろん、彼とこんな状態になった経験は無いけれど、それでも。ハーブをいくつも混ぜ合わせたような彼独特のまじないらしき香りも、いつも私より少し高めの体温も。
私が彼を、夢であってさえ、間違えるわけがない。

「レオンさん……私、起きないと」

私はこうしてずっと、この温度に包まれていたいのに、夢の中の私が勝手に。思ってもいないことを口にする。
ああそうか。うん、でも万が一こんなことになったら、私はきっとこの台詞を口にするんだろう。
彼に、素直に甘えていられない、実際の私はこんな風なのだ。
負担をかけないように、甘えすぎない。一緒にはなれない、と彼は言ったから。これは、私の求めた恋人ごっこ。
いつでもそう、頭ではわかっていて。
けれどこうして、甘えすぎることなく潔い恋人ごっこのフリをしていれば、いつか彼が私のことを本気で求めてくれるのではないかと、浅はかな望みを抱いている。

浅はかな私の夢は、とても自分にとって都合が良いもので。

「もう少し、な?」
抱きしめる温度が、また少し上がった。

――知っている。
本当のレオンさんなら、もう少しだなんて求めない。
残念だ、なんて言いながら大して残念な風もなく、あっさりと私を手放すんだ。


しあわせで、とてもかなしい夢。


「……どうした、フレイ?」
珍しくレオンさんが私の名前を呼んだ。
「え?何がです?」
本当に何のことだか分からなくて首を傾げると、彼はその指をわたしの頬へと伸ばし、一度撫でた。
「寝不足か?」
目でも赤かっただろうか。頬に触れた温度は、やっぱり私より少し高い。
夢の中と変わらぬ香りに苦笑して。
「今日は夢を見て。早く目が覚めてしまったんです」
「眠れないほど怖い夢だったのか?」
レオンさんも苦笑した。
「いいえ。レオンさんと一緒に、お昼寝をする夢でしたよ。きっと夢の中でも寝ていたから、寝過ぎて起きてしまったんですね」
「なるほどな。……それじゃあ、今から一緒に寝るか?」

断られること前提の彼の提案に、私の返せる答えは一つしかない。

「ダメですよー。まだやることがたくさんあるんですから」

そうして欲しい、抱きしめて眠って欲しいです、そう答えたならあなたは、この関係を重荷に感じるでしょう。
だからそんな態度は微塵も見せることなく、当然のように断った。
そうか、残念だ。
レオンさんはそう言って笑う。まるで残念な風もなく、あっさりと。

「アンタのその夢が、いつか正夢になることを願ってるさ」

最後に添えられたその言葉だけが、私の心を酷く揺らして。
きっと私はまた、浅はかな夢を見るんだ。