二 人





良い風が吹いている。さっと風に煽られた髪を片手で押さえ、は前を行く二人に目を向けた。
さくさくと、しかし決してと距離を離すことのない速度で涼しい顔をして歩くジョルジュは、両手にいっぱいの荷物を持ったままジュリアンと談笑している。
やがてリカードが現れ、ジュリアンに何やら耳打ちすると、ジョルジュがちらりとを見やった。
「ああ、それでいい」
何かしら、と考えているうちに、ジュリアンとリカードはジョルジュの荷物を受け取って別方向へ行ってしまって、はジョルジュと二人きりになった。

「何かありましたか?」
不安に思って尋ねると、しかし彼は柔らかく笑って速度を落とし、の隣に並んだ。
「いや、今日は思ったよりも買う量が多いから、二手に分けただけだ」
「なるほど」
確かに、久々に物資の補給が出来るからだろう、買い出しの量がいつもとは比べ物にならない。
「ジョルジュ殿にまでお手伝いいただいて、本当にありがとうございます」
アカネイアの将軍にこのような雑事を頼むのは気が引けたが、彼の方から言いだしたことだ。
ジョルジュとしては、別段用があるわけでもないから買い出しぐらい、と思っての申し出だったが、は随分と恐縮している。
苦笑を交えつつ、これぐらいのことはやって当然だと伝えると、それでも彼女は少し困ったように、隣を歩くジョルジュを見上げた。
「でも、お一人でいるのがお好きだと聞いたので・・・休息の間ぐらいは、落ち着いて過ごしたかったのでは」
誰から聞いたのか、いや、自分で話したか?確かに一人は嫌いではないが。
ジョルジュも、彼女に視線を向けた。目が合った。
「お前といるのなら構わない」
さらりと告げる。
「・・・!」
相変わらずの反応。はぱっと赤くなった顔を伏せたが、見下ろす角度では耳や首筋まで真っ赤なのが見てとれて。何も隠せていないのが可笑しい。
くつくつと笑っていると、彼女が恨めしそうに呟いた。
「そういうのは、困ります・・・」
マルスの沐浴の話もそうだが、こういう反応を可愛いと思う男もいるらしい。・・・というのを最近、色々な人と話してもなんとなく分かってきた。が、分かったからといってどうにか出来るものでもない。
マルスならば「困る」といえば控えてくれるが、そういう相手ばかりではない。
「本心なんだがな」
ふ、と微笑して、彼は俯いたままのの髪を、一度だけ柔らかく撫でた。
「まあ、お前がそこまで困るなら気をつけようか」
遠慮する気などまったく無さそうな声に、は結局、顔を上げることが出来なかった。