S . C . 4 ( W )





空になった紅茶のカップなどを手に歩いていると、先ほど部屋を出たままのウルフが人目を避けて佇んでいるのが見えた。
「・・・ザガロか」
近寄ればやはり、こちらを確認もせずに言い当てる。
殿ならもう退室したぞ。部屋に戻ってはどうだ?」
「そうか」
ウルフはちらりとザガロの手元に目をやった。カップを4つ持っている。
「ああ、お前の分は部屋に置いてあるからな」
「いらん」
「まあそう言うな。紅茶は文句ナシにうまいぞ」
「ザガロ殿!」
フン、とウルフが鼻で笑ったのとほぼ同時に、後ろから明るい声がかけられて、彼はすぐに部屋に戻らなかったことを後悔した。
「すみません。カップ、置いて行ってしまって。・・・あ、お話し中でしたか、失礼しました」
「いや、気にしないでくれ。ウルフ、さっきの態度は謝罪するべきだと思うが?」
「・・・・・・」
ザガロに促されて、しかしウルフはするりと二人に背を向けた。
が一瞬躊躇ったのが分かって、さらに苛立ちが募る。
「進軍中に菓子など配って歩くような軟弱なアリティア騎士と、慣れ合う気は無い」
「そんなことはありません!狼騎士団の強さは聞き及んでいます。ですが、アリティア騎士は・・・」
「言葉で何を聞こうと信用できるものではない。反論があるなら戦いで示せ」
すたすたと、振り返ることもなくウルフは去っていく。
ザガロが「すまないな、何度も」と苦笑した。
「いえ」
けれどは、ザガロの予想に反して笑顔で振り返った。
「ザガロ殿。私が戦場できちんとした働きを見せれば、ウルフ殿はアリティア騎士を認めてくださるでしょうか」
「ああ。それは保障する」
「それならばきっと大丈夫です。・・・アリティア騎士団の強みは、どんな相手とも共に戦えること。私は、狼騎士団の皆さんとも、共に戦場で並び立ってみせます」
「そうか。殿には期待している」
ウルフにはその余裕が無かったようだったが、ザガロはパレスの戦闘でそれなりに周囲を見ていた。彼の見立てでは、の力量はウルフが納得するに足るものだ。
「はい!」
嬉しそうに微笑んだ彼女は、戦場に立つ鬼神の如きスナイパーを思い起こさせることはなく。
それに、あの机の上に残された一粒の「甘くはない」菓子の味を思い起こさせることも決してない。
ウルフがを認めるのはすぐだろう。
そうしたらもう一度、5人で一緒に彼女の焼いた菓子を食べたいものだ。
ザガロはカップを半分だけに渡して、一緒に厨房へと歩いて行った。