なみだを隠すように、





アカネイアに行くことにしたんだ、と告げた時、彼女は「え・・・」とだけ呟いてぱちぱちと目を瞬かせた。

マルスに話した時には、アカネイアはこれから大変だから、自分が至らない分ゴードンがジョルジュを助けてあげて欲しい、と答えが返ってきた。
ジョルジュにそれを告げた時には「良いのか?」と短く尋ねられた。主語は無かったが、師は恐らく、マルス王や宮廷騎士団のことを指しているのではない。
次はライアンに話さなくては、と考えていたゴードンも、思い直しての元へと急ぎやってきたのだ。

「ジョルジュさんが、アカネイアの治安の為に新しく騎士団を設立することになって。マルス様もアカネイアのことを心配してるし、ぼくが出来る精一杯でジョルジュさんの助けになりたいんだ。・・・宮廷騎士団に残るよりも、ぼくがマルス様のために出来ることがあると思うから」
一気にそれだけ言って、もう一度、目の前の彼女に視線を向ける。
からはまだ「え」以降の発言がなくて、ゴードンは苦笑した。
「ここにはやライアンみたいに優秀な弓騎士もいるから、安心だしね」
「そんな・・・」
ようやく彼女は次の言葉を発したが、そのまま俯いてしまった。
いつも毅然としていて、周囲の人と対する時には笑顔を絶やさない彼女の、俯いた横顔にこころが痛む。
彼女はゴードンのことを「安心できる」と言ってくれた。どんなに辛い時でも、自分のそばにいる時には穏やかでいさせてあげることが出来れば、と思っていたのに。
「・・・ドーガ殿もグルニアへ行くことになっていますし、カイン殿もお寂しいでしょうね」
「そうかもしれないね」
暗黒戦争の頃から親しかった先輩たちとも離れることになる。
「・・・ライアンも、寂しがると思います」
「うん」
自分を追ってアリティア騎士団に入隊してきてくれた弟も、置いていくことになる。
「・・・私も」
ゴードンの視線を受けても、珍しくは顔を上げなかった。
俯いたまま、小さく首を横に振って。
瞬間、はらはらと涙が散った気がして、ゴードンは息を飲んだ。
「私も、寂しいですけれど、応援してますから」
自分のそばではいつでも、自然な笑顔で居て欲しかった。
なのに顔を上げたは笑顔で。
今にも泣きそうな。違う。きっと今、泣いたのに。無理して笑ってくれている。
「っ・・・ありがとう、
自分はアカネイアに行く。その決断を変えるつもりはないけれど。
伸ばした手で一瞬だけ、笑顔の彼女を抱きしめた。
「ご、ゴードン殿!?」
「頑張ってくるね」
彼女の抗議は聞こえないフリ。にっこりと笑う。
「は、はいっ・・・」
は笑顔ではなくなって、何か言いたげに頬を染めて困惑した表情をしている。
それでも、無理して泣きそうな笑顔を見せられるよりは、よっぽど良かった。
(・・・やっぱり、女の子だなあ)
手を振ってと別れてからようやく、抱きしめた小さな身体と零れたなみだを思い出して、ゴードンは大きく息を吐いて両手で顔を覆い隠した。



お題配布元:「確かに恋だった」さま