ひどく曖昧に、





笑顔、と呼ぶほどは輝いていなくて。
反省に沈んでいると言えば確かにそうなのだけれど、でもイマイチ自分の非をハッキリとは認識していないというか。
だから、苦笑、というのだろう。多分。その表情は。
おかしいですね、と言いたそうな。
その彼女が手に持った器に入った、なんだかよくわからない物体を、さすがに「食べてあげる」と言う気にはなれない。
ゴードンは彼女にかけるべき言葉を見つけられず、一緒になって首を傾げた。
「断られちゃいましたね」
「えっと、うん、そうだね・・・」

珍しく調子を崩した師匠を、ゴードンだって労わりたいとは思っている。
しかし、がジョルジュに手料理を用意したと聞いて、若干モヤモヤとした気持ちに包まれたのは否定できない。
さらに、彼女が持ってきた謎の物体を見て、そのモヤモヤが良い勢いで吹っ飛んでいったのも否定できない。
最後に、彼女の手料理を目にしたジョルジュがすげなくその物体を突き返したのを見て、吹っ飛んだ筈のモヤモヤがちょっと戻ってきた、というのはしょうがないだろう。
かといってこの謎の物体を「の気持ちを汲んで、食べてあげてください」というのは、体調不良の師匠に対してあんまりな仕打ち。
ならばお前が代わりに食べてやれ、と言われかねないし。
は可愛い後輩だし、それだけでなくて好意もちゃんと持ってるし、とにかく出来ることならしてあげたいと思うけれど、それでもこれを食べろと言われたら笑顔で断る。
それぐらい、破壊力を感じる料理だった。
・・・いや、そもそもこれは料理なのか。適当に、駄目になった剣か何かをちょっと握りつぶして塊にしたものを皿に乗せてみたんじゃないだろうか。の力ならあり得る。
ゴードンがそんなことを考えている間に、彼女はちょこんと手に持ったままの器を眺めて、はあ、と一つため息をついた。
「料理、なかなか上手にならないです・・・」
「そんなことないよ。最初に比べれば上手になってきたよ」
「そうでしょうか」
彼女の料理にはあまり褒められる点が見つからないけれど、こんなにも落ち込まれると、どうにかしてあげたくなる。
断るにしてももう少し言い方ってもんがあるでしょう、と。この場にいない体調不良の師匠に心の中でそっと恨みごとを呟いて。
「大丈夫だよ。良かったら今度、一緒に作ってみようか」

ゴードンからの精一杯の打開策の提案に、は今までにも一緒に料理を作ってくれた数人の犠牲者を思い出して、一度深く俯いた。
けれど目の前でゴードンがにこにこと笑ってくれているので。
「・・・ありがとうございます」
ひどく曖昧に、ほほえみ返した。
彼が次の犠牲者にならないように、と祈りをこめて。



お題配布元:「確かに恋だった」さま