p a c a t o
随分と珍しい組み合わせに思えて、は足を止めた。
しかしが誰にでも声をかけるように、カインもあの屈託ない性格だから、誰とでも仲良くしているのかもしれない。
どうせ借りた本を返しに来たのだ。用事はここにある。
「おはようシーザ。この間の本、ありがとう。とても興味深い内容だったから、一気に読んでしまったわ」
「ああ、早かったな」
シーザは彼女から本を受け取って、パラパラと中を眺めた。
「おはようございます、カイン殿」
続けてカインにも声をかければ、彼はよほど本に集中していたらしくまったく今まで気付かなかったようで、慌てて顔を上げた。
「ん?ああか!」
一度大きく伸びをしたカインに、シーザが今から受け取ったばかりの本を差し出す。
「これはどうだ?かなり良い内容だと思うが」
「おお、悪いな」
読みかけの本はとりあえず置いて差し出された本を受け取り、先ほどのシーザと同じようにパラパラとめくってみて、カインは難しい顔で本を閉じた。
「これも難解だな・・・」
呟いた彼に、シーザが小さく笑う。
「は読破してきたぞ」
「何!?」
カインは豪快に立ち上がった。
「それは負けていられんな!これを借りていっても良いだろうか?」
気合の入った彼に、しかしシーザは穏やかに首を横に振った。
「駄目だ。お前は読むならここで読んでくれ。持って帰っては読まないタイプに見える」
「うっ・・・」
立ち上がった勢いそのままに座り直して、カインは諦めたように再び本を開いた。
「それに、わからない箇所はすぐ聞ける方が、お前にとっては良いだろう」
「うむ・・・すまんな」
再び本に没頭するカイン。はシーザにそっと話しかけた。
「戦術書?」
彼らの前に積まれた何冊もの本は、ぱっと見た感じ全てが用兵に関わる本だ。
「ああ。勉強がしたいとここに来た。ラディにも見習わせたい姿勢だな・・・」
二人の会話に、カインは目も上げずに答える。
「・・・基礎はもちろん押さえているつもりだが、この戦いを勝ち抜くために知識がもっとあって困ることは無い。おれはシーザの用兵術に感銘を受けた!訪ねてみればこれほどの勉強量だ。まったく頭が下がる!」
一介の傭兵だとか、出自がどうだとか、カインはそういう理由で人を見ない。
本人の姿のみを見て、素直にそれを認める。
そして、どのような努力も惜しまない。いつでも全力だ。
「カイン殿のそういうところ、とても好きです」
がほわりとほほえんで、カインが思わずペンを取り落とした。
慌ててそれを拾い上げる彼を、シーザがちらりと睨む。
「・・・、今度はどの本にする?」
「また借りて良いの?」
「お前はきちんと内容をものにしてくるから、貸す甲斐がある」
「ありがとう!見せてもらって良い?」
「ああ、こっちだ」
シーザはを連れて奥へと入っていく。そこへカインが後ろから声をかけた。
「シーザ、すまん!ここが読めないんだが・・・」
「そこに辞書がある」
ぴしゃりと言い放たれた言葉に、ぐっと動きを止めて。
それからカインは仕方なく辞書を手に取った。
がしがしと頭を掻きながら、難しい顔で分厚い辞書をめくる。
なんだか腑に落ちないのだが、しょうがない。「わからない箇所はすぐ聞ける方が・・・」と直前に聞いた気がしなくもないが。
しかしシーザの言うとおり、自室に戻れば身体を動かすことの方が楽しくて、本は後回しになってしまうだろう。
真面目に辞書をひくカインを見ながらシーザは、が帰ったら続きを見てやろう、と考えて笑った。
シーザだってと同じで、何にでも懸命な彼には良い印象を抱いているのだ。
そのは目をきらきらと輝かせながら本の山に埋もれて、今はきっとシーザのこともカインのことも頭に無いのだろう。
こんなところで小さな攻防が行われているなんて、考えもしないに違いない。
その様子を眺めながら、シーザはやはり誰にもバレないくらいに小さく笑っていた。