兄と弟













ふうっと一息ついて、ライアンは自分の少ない荷物の中から封筒を取り出した。
ガサガサと中を開き、それを眺めてにこりと笑う。
数秒それを見つめてから、再び綺麗に折り畳んで封筒にしまいこんだところで、後ろから年上の同僚ががばっと飛びついてきた。
「うわあ!?」
「ライアン!お前今、何見てたんだ?まさか、ラブレターか!?」
「ああ、ルークさん・・・違いますよ」
「本当か?手紙見てニヤニヤしてたじゃんか」
「え、そうでしたか?恥ずかしいなあ・・・。でも本当に、ラブレターとかじゃないです」
ラブレターなんてもらったことはないし、今見ていたのだってそんなものではない。
けれど、自分にとっては宝物で、見れば元気が沸くものだ。
「じゃあ何見てたんだ?面白いものか?」
ルークが食い下がる。この同僚はまだ、ラブレターを疑っているらしい。
が、これはちょっと、人には見せられない。
「いえ、本当に・・・なんでもないんです」
この返事はまずかったなあと、口に出したあとにライアンは後悔した。
これは、相手の興味をそそる返事だった。
「すっげえ気になってきた!」
あ、やっぱり。
「ちょっと見せてみ?」
「駄目です!これは駄目です!!」
自分よりかなり大きい相手から、手紙を守るのは結構大変だ。
ライアンは善戦したけれど、結局その手からひらひらと3枚の手紙が滑り落ちた。
「あっ・・・」
「おっ」
ルークは素早くそれを拾い上げようと手を伸ばしたが、彼より先にすっと女性の手が伸びてきた。
「何してるのよルーク。ライアンを困らせちゃ、ダメよ」
「違うって。その手紙、ラブレターか!?」
ああやっぱりこの人は、ラブレターを疑っているのだ。全然違うのに。
「ライアンの手紙なんでしょう?他人が見るものではないわよ」
やはり同僚の、マルス王子の近衛騎士である彼女は、拾い上げた手紙を出来るだけ見ないようにライアンに返そうとした。
しかし気を抜いてそれを受け取ろうとした彼の手から、手紙がルークにさらわれる。
「ちょっとルーク!」
「大丈夫だって、ラブレターじゃないってライアンも言ってるし」
「それなら尚更ダメよ!」
そうですよ、ラブレターじゃないから、見られたら困るのに。
とは言っても既に、手紙の中味はルークの目に入ったらしい。
彼はしばらくそれを見つめてぽかんとしてから、やがてくくくっと笑い出した。
「くくっ、あはは、お前それ、ゴードンさんからか?」
「・・・そうですよっ」
自棄気味に答えた。そう、それはライアンの宝物。
ゴードンがアカネイアのジョルジュ将軍の元へ弓の指導を受けに行っていた頃に、両親への手紙とともに、ライアン宛てに送ってくれていた手紙なのだ。
「あっはっはっ、ゴードンさん、おもしれー!」
「あんまり笑わないでくださいよ!」
ルークはライアンをばしばしと叩いて笑いながら、その手紙を目の前で困った顔をしているに手渡した。
彼女がライアンをちらりと窺うので、諦めてこくりと頷く。
ルークに見られてしまったのだ。もうに見られるぐらい構わない。
受け取った手紙を見て、彼女はやはりしばらくぽかんとしていたが、やがてふふっと小さく笑うと、綺麗にそれを折り畳んでライアンに手渡した。
「ゴードン殿のようなお兄さんがいて、ライアンは幸せね」
「・・・はいっ!」
そう、幸せなのだ。自分は、間違いなく。
でも――。
「でも、3枚目はちょっとね」
そう、3枚目は少しだけ、納得がいかない。
「そうなんですよね・・・。他の人はちゃんと描けてるのに、どうしてぼくだけ」
「その場にいなかったから、イメージだけで描いたからじゃねえの?」
未だに笑い続けるルークが答える。
彼の言うことは多分当たっているのだろうけれど、つまりは兄にとって自分はこんなイメージなんだなあと、わかっていたけれど少しだけ落ちこんで。
もう一度こっそりと3枚目の手紙を開いて、そこに描かれた緑のキノコを見つめて、それから笑いのおさまらないルークを見ながら、ライアンはまたため息をついた。