S . C . 2
「今日はカインの番だぞ」
「う・・・わかっている」
「あの・・・頑張ってください!」
ドーガとゴードンに背中を押されて、カインはしょうがなく一歩、歩み出た。
が、すぐに後ろを振り返る。
「そういえばゴードン、お前は昨日失敗しただろう。今日リベンジしたらどうだ?」
「え!い、いや、あの、次回!次回こそ頑張りますから!」
怯える後輩に無理やり行かせるような性格ではないのが、カインの損なところだ。
これが彼の師匠の弓騎士ならば、なんとでも理由をつけるのだろうけれど。
カインは諦めてがしがしと髪をかくと、大股で調理場に近付いた。
ちょうど向かいから、目的の人物が機嫌良く歩いてくる。
マルス王子の、最強の近衛騎士。そして本日カインが対峙すべき相手。
は調理場の入口に立ち塞がるカインを見つけ、にこりとほほえんで会釈した。
「お疲れ様です、カイン殿」
「うん?ああ・・・」
そのまま彼の脇をすり抜けて調理場に入ろうとする彼女の行く手を、慌てて回り込んで塞ぎ直すと、はようやくきょとん、とカインを見上げた。
「あの・・・?」
困惑する。何か言わなければと思うが、すらすらとは言葉にならないカイン。
そういえば、行く手を塞いだ後のことは何一つ考えていなかった。さあどうするか。
昨日のゴードンは・・・彼女の「どうしても、上手に作れるようになって、おいしい料理を皆さんに食べていただきたいんです」という真摯な気持ちと、その上目づかいのお願い(本人にはそんな気など無いのだろうけれど)に負けて道を譲ったらしい。
一昨日のドーガは・・・わざわざその為にとある筋から入手したという彼女の「秘密」をちらつかせ、調理場から遠ざけることに成功したらしい。ただしその後はかなり大変だったようだが。
さて、自分はどうすれば、彼女の料理を阻止することが出来る?
結局仁王立ちのまま、カインは首を傾げるに向けてびしっと言い放った。
「どうしても夕食を作ると言うのなら、このおれを倒してからにしろ」
数秒、しんとした時間が流れた。
何か答えてもらわなくては、カインとしてもアクションがとり辛い。
どうしたものかと立ち尽くしていると、やがてがほわりと笑った。
「カイン殿は本当に、私の祖父とそっくりです」
祖父もよくそう言っていました、懐かしいです。
彼女はそう言ってほほえむけれど。
「・・・またか・・・。まだ二十代だというのに、そんなに祖父似なのか・・・」
「えっ!ち、違います!すみません、また誤解を招くようなことを・・・」
ふうっと落ち込んで大きなため息をつくカインに、は慌てて謝罪に入る。
「ですから・・・老けて見えるとかではなくて・・・!・・・・・・!!」
ドーガとゴードンは少し離れた場所で、一部始終を眺めていた。
「すごいなあ、何したんだろうカインさん。が謝ってる。ぼくなんか、こっちが謝っちゃったのに」
「私は、謝罪させられた上に、記憶を消してください!と言われて、危うく殺されかけたが」
「それはドーガさんが悪いですよ・・・」
本気で落ち込んでがっくりしてしまっているカインと、その周囲をうろちょろしながら何とか彼を立ち直らせようとする。
とりあえず、今日の鋼料理阻止は成功だろう。
今のうちに作ってしまおうと、二人は裏からこそこそと調理場へ向かった。