v e r s u s 2
「だから、いいって言ってるでしょ」
「じゃあお前コレどうする気だよ」
その声に反応してしまった自分に苦笑して、ジョルジュは調理場に目を向けた。
アリティアの騎士、とルークだ。
そう判断して、からかいがてら調理場に顔を出せば、そこではやはり予想どおりアリティア騎士の二人が、鍋を挟んで言い合っていた。
「楽しそうだな」
「ジョルジュ殿!?」
「・・・げっ」
聞こえたルークの声には、そちらを向いてニヤリと笑ってみせるだけに留めたが、彼が怯えたように一歩下がったのでそれで満足してに向き直る。
「何を騒いでるんだ?」
「え・・・その・・・お料理、失敗してしまって」
もじもじと告げる彼女の背後ではルークがぼそりと、「失敗じゃねーじゃん」と呟く。
はキッとルークを睨んだが、ジョルジュの手前それ以上は何も言わなかった。
鍋の中をちらりと覗けば、そこにはいっぱいのスープ。
見た目に不味そうなことは無いが、彼女の料理といえばアリティア騎士たちが代わる代わるに身体を張って阻止することで有名だ。ゴードンからも、その破壊力については聞いたことがある。
「一つ聞きたいんだが」
「はい・・・?」
しゅんと俯いて、それでもそっとこちらを見上げてくる彼女に、ジョルジュは真面目な顔で尋ねた。
「お前は料理が不得意だと、オレの耳にも入っているが」
「え、はい・・・すみません」
「どうして毎回そんな大量に作るんだ?」
がぐ、と言葉に詰まって、それからちらりと鍋の中を見た。
今度こそ成功すると、毎回そう信じて作っているのだ。上手に作れるようになるまで、少しずつ練習すればいいのかもしれないが、量が違えば勝手も違うだろう。
けれどそれは言い訳にしかならない。
現に、食べられないスープが山ほど、目の前にあるのだから。
「・・・別に、オレは食えるからいいって。好きなだけ作れよ」
黙っていると、後ろからルークが口を開いた。
その目がジョルジュを明らかに睨みつけていることには、はもちろん気付かない。
そんな彼に向かって、ジョルジュは再び小さく笑ってくるりと踵を返した。
「随分と頼もしい仲間がいるじゃないか。・・・、そいつが食べきれなかったら、オレのところへ持ってこい。どうにかしてやろう」
「え?あ・・・ありがとうございます・・・」
じゃあな、と手だけを上げて、ジョルジュが去って行く。
はくるりと振り返り、ルークを見上げた。
ルークの目が泳いでいるのは、気のせいでは無いかもしれない。
「ルーク・・・あの、もしかしたらジョルジュ殿なら、どうにか食べられるように味付けし直してくれるかもしれないけど・・・」
冗談じゃない。彼女があの男に頼るなんて。
アイツのところにこれを持って行くなんて、考えただけでイライラする。
アイツさえ来なければ、食べるなんて言わなかったのに。
「オレが全部食うって。腹減ってんだからいーんだよ」
あれは絶対、オレへの嫌がらせだ。
ああ言えば、オレがこれを食べるしかないと、分かってて言ったに違いない。絶対そうだ。
大きな皿にスープをついで、ルークは味の分かってしまっているそれを、覚悟して口に含んだ。ああマズイ。本気でマズイ。
けれど、目の前に心配そうながこちらを見つめて座っているので。
こんな彼女をアイツの前に座らせるのだけは嫌だと、そう思いながら無理やりそれを飲みこんだ。