TRICK OR TREAT
たまには息抜きに、と仮装パーティをやると言い出したのはシーダらしい。
女性と子どもは仮装、残りはお菓子を用意して。
仮装組は、みんなからお菓子を集めて回る。
じゃあ、集めたお菓子の一番少なかった人は罰ゲームだね、とマルスは笑った。
「罰ゲームって何かしら・・・頑張らなくちゃ・・・」
無難に魔女の仮装を済ませたは、いそいそと部屋を出て行った。
「あ、ロディ」
まずは、頼りになる同僚を発見。
「あの・・・トリックオアトリート?」
教わった呪文で、お菓子をねだる。彼はすぐに、小さな包みを差し出した。
「数が無くてすまないが」
「手作りなのね、ありがとう!」
良い香りのそれを大きな袋に詰めて。まずは一つ。
「ウェンデル様だわ。あの、トリックオアトリート?」
司祭は背後に山のように積んであるお菓子を指差した。
「ああ、はいはい。好きなだけ持って行きなさい」
「わあ・・・!ありがとうございます」
両手いっぱい掬いあげてから袋に詰めて。2人目にして結構な量。
「エッツェル殿、エルレーン」
談笑する二人に声をかける。
「ああ、お菓子だな。可愛い格好じゃないか」
「そ、そうでしょうか」
例の呪文を唱える前に、ぽんとエッツェルから差し出されるお菓子の包み。
隣に立つ、難しい顔の青年にも視線を向けると、彼は何故か鼻で笑って、それでもこちらもお菓子をくれた。
「俺はともかく、ウェンデル様に菓子をせびったりなどするんじゃないぞ!」
「・・・えっ?あっ、そうね?」
「貴様、まさか・・・」
「二人ともありがとうっ!」
慌てて逃げ出すの後ろで、エルレーンがぎゃーぎゃー言っていて、エッツェルが楽しそうに笑っていた。
「ああ危なかったわ。えーと他には・・・あ、シーザ・・・って・・・」
素早く周囲を警戒していたと思ったら、急に猛ダッシュ。
視界から姿を消してしまったシーザの、つい今いたはずの場所を、次の瞬間ラディが駆け抜けて行った。
「シーザ!もっと頼むよ!」
「断る!そもそもお前は子どもじゃないだろう!」
「しょうがないだろー!お菓子が無いと罰ゲームなんだよ!」
離れて行く二人の声が遠ざかっていく。どうやらシーザからお菓子をいただくのは無理そうだ。
困ったようにウロウロ歩き回っているのは、ホルス。
「ホルス殿?」
声をかけると彼はびくっとこちらを振り返った。
「殿・・・!すまない!」
「え、急にどうなさいました」
「菓子の準備が無いのだ・・・。この上は、もう腹を切って詫びるしか・・・!」
「ま、待ってください!」
は慌ててお菓子を詰めた大きな袋を開いた。
「先程、ウェンデル様からたくさんいただいたので、良ければ少しお持ちください。このあと他の方にも差し上げなければならないでしょうし」
「それでは君が・・・」
「大丈夫ですよ。まだたくさんありますから」
にこりと微笑んでホルスにお菓子を渡して、少し袋は軽くなった。
パオラとカチュアが並んで歩いている。
「お二人とも、いかがですか?」
どきどきしながら袋を見せ合った。
何だかマズイ。の袋の中身は、二人より一回り少ないのではないだろうか。
ホルスにあげてしまったのもあるし、そもそもがあまり集められていない気がする。
「さんも、良かったらどうぞ」
パオラから差し出されたのは、彼女の手作りクッキー。
「パオラ姉様はずるいわ・・・。自分のお菓子も混ぜているんだもの」
カチュアが呟くと、パオラはゆったりと笑った。
「あら、そんなこと言うなら、返してもらおうかしら」
「う、ごめんなさい・・・」
パオラのクッキーを入手して、袋は少しだけ膨らんだ。
「あ、」
ゴードンが、ライアンにお菓子をあげているところに遭遇。
ちらりと横目で確認したけれど、ライアンの袋は明らかにより大きい。
「ゴードン殿。私にも、いただいていいですか?」
「ええー、どうしようかな?」
「う・・・と、トリックオアトリート!」
「あはは、しょうがないなあ」
兄の出してきたお菓子の量に、ライアンがぷーっと膨れる。
「兄さん、それじゃあぼくより多いです」
「だって、今まで見た中で一番少ないし・・・」
「えっ!」
うすうすそんな気はしていたけれど。
慌ててゴードンの手からお菓子を受け取って、袋に詰めて。
袋の大きさは、ライアンの半分くらい。
てってっと駆け寄っていくと、ライデンは大げさに眉を顰めた。
「お前は、そんなことまでしているのか」
「ええと・・・」
普段から、何でもやりすぎだと叱られているので、言い訳も出来ずに曖昧に微笑むと、彼は大きなため息とともに、大きな大きな袋を取り出した。
「まあいい、持って行け。これで罰ゲームまでやるようでは、いくつ身体があっても持たんだろう」
「あっ・・・ありがとうございます!」
思わぬところで大きな収入。袋はだいぶ、大きくなった。
そのうしろではロベルトが、ライデンににやにやした視線を向けていた。
随分と集まったお菓子に、機嫌も良くなってきた。
「あ、ジョルジュ殿!」
「ん?ああ、か」
「トリックオアトリート?」
にこにこと彼を見上げるに、ジョルジュは少し考えて、それからにやりと笑った。
「・・・生憎、今は菓子の持ち合わせがないな。『トリック』でお願いしようか」
「・・・え?」
そういえば、この呪文。「お菓子をくれなきゃイタズラするよ」であるとは聞いたけれど。
え?イタズラって、何をすればいいの??
お菓子をくれなかったといえばホルス殿もそうだけど、彼には逆にお菓子をあげたわけだし。
考え込んでしまったに、ジョルジュはすっと顔を近づけた。
「どうした?お前がしないなら、オレがイタズラしてやろうか?」
「――――っ!?」
キスするんじゃないか、というぐらい近くに顔があって、最高に慌てたが思わずしゃがみこむ。
くっ、と小さな笑い声が聞こえて、真っ赤になったままその場を逃げ出した。
「あ、ジョルジュさん、トリックオアトリート?」
ユベロが控え目に声をかけると、ジョルジュは楽しそうに笑って、隠していた小さな包みを取り出した。
「どうぞ、ユベロ王子」
「ありがとう!」
ふわりと嬉しそうに笑うユベロ。
アストリアが二人を、呆れた顔で見ていた。
(まったく、ジョルジュのやつは)
ちなみに彼のお菓子はすべて、ミディアにあげてしまったので、もう無い。
(イタズラって何!?全然考えてなかった!もう、ジョルジュ殿は・・・!)
先程の距離を思い出して、まだ紅潮した頬のおさまらないまま、は次のターゲットを探す。
次は、お菓子が無いと言われたら、ちゃんと『トリック』しないと。
チャキ、と弓を取り出して、矢を一本つがえて。
「ルーク!」
「おう、」
呑気な表情で手を上げる同僚に向けて、彼女は厳しい表情で弓を構えた。
「トリックオアトリート!」
「ちょっ、待て、お前!それイタズラじゃすまねーだろ!!」
とりあえず彼女の行動に突っ込んでから、ルークは慌ててお菓子を取り出して彼女に向けて放り投げた。
袋にストンとおさまるお菓子。
さて、罰ゲームは、免れるのかしら?
Happy Helloween!