贈 物





「えっ・・・」
急に差し出されて、お前にやる、と言われたそれを見つめる。
受け取ってもいいものなのだろうか。まさかこれを受け取ったら引き換えに何か要求されたりはしないだろうか。決して彼を疑っているわけではないが、それでも男性からプレゼントなんて、今までされたことが無いのだ。
は困ったように品物から人物へと視線を移した。
「・・・どうした?」
「あの・・・いただく理由が分かりませんが・・・」
目の前の男――ジョルジュは、彼女の質問を反芻する。
「理由か」
彼女に渡そうと思って買ったものなのだから、断られない方向に話を進めなければならない。
そんな理由ならいただけません、などと言われては、処分にも困る。

「これがオレの手にあって、何か使い道があると思うか?」
そう言われて、はもう一度、彼の手の中の品を見つめた。
の髪の色と同じ、透き通ってキラキラした石に銀やリボンで装飾がついている、可愛らしいそれは恐らく髪飾りなのだろう。
ジョルジュの髪も長くて美しいのだけれど、さすがにこのように女性らしいものは着けないと思われる。
「いえ、それは無さそうです」
だからと言って、自分が貰うわけにはいかないとでも言いたげな困惑の表情に、ジョルジュは苦笑した。

ひとつ。弦を貰った礼に。
ふたつ。彼女への好意を表す為に。
みっつ。たまたま「可愛いものが好きだ」という話を聞いてしまったので。



さあ、どれにする。
瞬時に自問して、そうして解答を得る。

「まあ、気にせずに受け取っておけ。・・・どうしても気に入らないのならば、シーマ王女にでも差し上げるといい。可愛いものがお好きだそうだ」
言うが早いか、の傍らに膝をつくと、髪にそれをすっと差してしまった。
「えっ、あ、あの」
鏡が無ければ取ることも出来ない。高価そうだったのに、無理やり取って壊したりなどしたら、それこそどうしたらいいか分からない。
困って髪飾りにそっと触れてみることしか出来ていないに、ジョルジュは笑いかけた。
「お前の髪に、よく似合う」

彼女に対してこのような台詞は、からかっていると受け取られてしまう可能性が高い。
分かっていながら、それでもジョルジュは口に出してしまった。
それぐらい、ぴったりだと思えた。
けれど、かあっと赤くなるに、言わない方が良かったか?と思い直し、追加の一言。
「さすがに、オレが選んだだけはある」
「あ・・・そ、そうですねっ」
慌てて頷くを残して、ジョルジュは立ち去った。
あれを彼女がどうするか、そのことにこだわるつもりはない。
もっとも、彼女が「シーマにあげてしまう」という選択肢を選ばない自信はあるのだが。




鏡を見つめて一瞬息を止めて、それからは大きく息を吐いた。
(やっぱり、私にはこれは・・・)
戦っている間は着けていられないし、何より、こんなに可愛らしい髪飾りを自分が着けていることが落ち着かない。
けれど、シーマ王女に差し上げる、という気にはなれなかった。
自分の髪と同じ色の石を見つめる。
(私に・・・?)

お前に好意を持っている、というジョルジュの言葉を思い出す。
最初は即座に否定したその言葉が、考えれば考える程、本気に思えてきて。
そんなわけないのに、と思いながら。
それなのにどんどん逃げ場がなくなっていく自分に気付きそうになる。
(気に入らないわけじゃないから、私が持ってていいのよね・・・?)
は髪飾りを柔らかな布で二重に包んで、荷物の奥へとしまいこんだ。