微 熱 (いっぽうそのころ)





が倒れた時、その隣にいたのはジョルジュだった。
それはしょうがないことだ。
アカネイアの将軍である彼が、軍議の際に極めて重要な役割を担っていることぐらい分かっている。
けれどやっぱり、頭で分かっていても、ルークの空気はまた少しイラっと震えた。
隣でロディがため息をついて、ライアンが怯えた瞳でこちらを振り返った。
それぐらい、イライラが表に出てしまったらしい。

彼女の調子が悪いことには、自分だって気付いていたのに。
やっぱりジョルジュも気付いていたのだろう。彼女が倒れる瞬間、流れるように受け止めて、さらりと抱き上げてしまったのだから。
それを見た瞬間、もう軍議の内容なんて9割方吹っ飛んでしまって、態度に出さないように努めるので精いっぱいになってしまった。





「大丈夫か?どーした?ちゃんと飯食ったのか?」
心を落ち着けて、極めて明るく軽く、ルークは彼女の部屋に入った。
「あ、ルーク」
は横になってはいたけれど、思っていたよりずっと元気そうで顔色もいい。
ほっと安心して、それからふと机の上に書きものの跡を発見した。
「おい、まだ起きるなよ?」
「え?ああ、それはジョルジュ殿が置いて行かれたのよ」
「・・・っ」
何気なく手に取ろうとしたそれを、ルークは慌てて放り投げた。
ぱさり、と元通り机に落ちたそれを、ちらりと睨んでそれから一応、綺麗に置き直した。
「・・・ルーク?どうしたの?」
「あ、いや・・・なんでもねーよ。それより、なんか食うか?持ってきてやろうか?」
聞きたくなかった名前を聞いてしまったことによる焦りを隠して。さっきのようにイライラが出てしまったら、彼女は不審に思うだろう。
幸いは特に気にはしなかったらしく、んー、と少し考えてからにっこり笑った。
「焼きリンゴが食べたいわ」
「おう、まかせろ!」



元気良く部屋を出て行った同僚の、一瞬の動揺を、は見逃さなかった。
そっと身体を起こして、机の上のジョルジュのメモを手に取る。
中を熱心に見入る、というほどではないが、軽くさっと目を通して。
「・・・おかしなところは無いわよね?」
それから、一度畳み直して、片手でひらひらと振ってみた。
何も落ちてこないし、おかしなところも本当に見つからない。

「・・・どうしたのかしら、ほんとに」
ルークの戻ってくる足音がして、は慌ててベッドにもぐりこんだ。
なんとなく。なんとなくだけれど、理由は聞いてはいけない気がする。
気にしながらも、彼女は彼の動揺を、見なかったことにしようと心に決めた。