v e r s u s





斬り落とした片翼が地面にズサリと落ちる。それとほぼ同時に、飛竜は残った翼を大きく叩きつけて暴れ出した。
間近で受ける暴風に、馬上でバランスを崩す。
「やっべ・・・」
ルークは手綱をきつく引くと、なんとか吐き出される炎から身をかわそうとした。
何度も戦っているのだから、間に合わないことぐらいは想像出来たが、それでもかわす以外に出来る事は無い。竜の喉の奥に炎の影をみとめて、やっぱりなー、と考えたそのすぐ脇、もう数センチこちら寄りならばルークに突き刺さるぐらいの距離を、矢が通り抜ける。
飛竜は炎を吐きだす前に絶命し、先程斬った翼の上にその巨体を落とした。

「残念だな。お前は、腕はいいんだが」
助けてもらったのだから、まずは礼だ。分かっている。
分かっているが――。
「・・・残念?」
イラっとした口調になってしまったのは、しょうがない。あっちが先に喧嘩売ってきたんだぞ?
心の中で言い訳しつつ、そちらを振り返る。
コイツだけには助けられたくない相手と言っても過言ではない。礼を言おうと一瞬考えただけでも褒めてくれ、とさらに言い訳を重ねる。
明らかな敵意を感じていながら、ジョルジュは涼しい顔のまま肩を竦めた。
「お前は、あいつの役に立ちたいんだろうが」
あいつ、が誰を指すのかぐらい、よく分かる。
2人の共通の話題なんて、それぐらいしかないだろう。
「無茶をして傷を増やしては、悲しむだけだぞ」
「・・・分かってますよ」
それでも、彼女の助けになりたい。彼女を少しでも守りたい。
出来ることなら、自分に一番頼って欲しい。
そう思っているのはあんたもじゃねえのかよ、と睨む。さすがに口に出すほど礼儀をわきまえないつもりは無い。もう手遅れだとは思うけれども。

その視線を受けて、ジョルジュは小さく笑った。
余裕の微笑みが、ルークの苛立ちをまた少し上乗せする。
「・・・残念だがオレは、がオレ以外に頼ることは大歓迎だ。もちろん、お前にも」
(なんで考えてることが分かるんだよ!不気味すぎるだろ!)
慌てて目を逸らせば、目の前の男はもう、小さくどころではなく、大笑いを始めていた。
「顔に出過ぎだ。これだから、アリティア騎士はいい」
そんな言葉にさらにイライラしながら、それでも少しだけ気を許してしまうのは単純すぎるだろうか。
彼はアリティアに対してとても好意的だ。そこだけは、素直に嬉しい。
だからルークは一言だけ、口を開く気になった。
「オレは、あいつがあんたに頼るの、嫌ですけど?」
それに対して、ジョルジュはまだ笑いながら「そうか」と答えた。
「あいつの負担が少しでも減るならオレは構わない」


これはなんだ!?
年上の余裕か!貴族の余裕か!大陸一の余裕か!?
それとも、彼女を最終的に手に入れるのは自分だという余裕か!!?
オレなんか相手にもならねーってことか!?
独占欲出しまくりの自分が、バカみたいだろーが!


言葉も笑顔も見た目も、それ以外も、彼の何もかもにイライラしながら、ルークは手綱を引いた。
くるりと馬が方向を変えて、走り出す前にあと一言だけ。
「助けていただいて、どーも!!」
こんなことで借りを作らないようにと、イヤイヤ絞り出したのが見え見えで。
「お前相手だから、本音を喋ってるんだがな・・・」
あっという間に遠ざかってしまったルークの背に向けて一人呟いて、ジョルジュはもう一度笑った。
やっぱり自分は、アリティア騎士には弱いらしい、と思いながら。