◎ 1 ◎
「ジョルジュ殿、これからよろしくお願いします。
大陸一の弓使いと呼ばれるあなたと共に戦えること、光栄に思います。」
ジョルジュ「大陸一か…すまんが、そのたいそうな呼び名はよしてくれ。」
「え? 何故ですか?」
ジョルジュ「オレは名門貴族の出でな、大陸一などという名は、一族の連中が名声欲しさに流したものだ。
本当の実力はそれほどのものではない。」
「そ、そうなのですか…そういえばお聞きしていいですか?
あなたはカシミア大橋で…」
ジョルジュ「なぜ弓兵のオレが城の防衛などしていたか、か?」
「あ、はい。私たちからすればありがたいことでしたが…」
ジョルジュ「確かに弓は城の守りには向かない。至近まで近づかれれば何もできんからな。
だが、それを百も承知で、ハーディンはオレに命令したんだ。」
「…それはつまり…」
ジョルジュ「ああ、そうだ。体のいい処刑だな。
城を守って死ね、ということだったんだろうよ。」
「何故、そのようなことに…」
ジョルジュ「ハーディンに忠言を繰り返したり、ラングを見捨てたりしたからな。
ハーディンからすれば、オレは邪魔なだけだったんだろう。」
「…………」
ジョルジュ「あの場で死ぬのも仕方がないという気持ちでいたがな。
たちには、忠誠を誓うべき方を思い出させてもらった。感謝している。」
「こちらこそ、ジョルジュ殿と共に戦えることを感謝しています。」
◎ 2 ◎
ジョルジュ「…というわけで、アストリアとミディアはその時から恋仲になった。
オレとミディアを結婚させるつもりだったオレの一族連中は激怒したが…
こればかりは気持ちの問題だからな。」
「そんなことがあったのですね…」
ジョルジュ「だから、オレだけ未だに一人身だ。
どこかにオレを慰めてくれる良い女がいればいいんだがな…」
「またそのような…あなたの浮名はいくつも聞いています。
軽薄な人だとまわりに思われてしまいますよ。」
ジョルジュ「ははっ、そいつは困ったな。」
「でも、あなたはそう思わせたい…のではありませんか?」
ジョルジュ「…ん?」
「あなたと会った人は…その美しい見た目と名門貴族という肩書きに目を奪われがちです。
しかしあなたの戦い方は、どこか計算されたものを感じます。
戦いは何より人を表す、それが私の祖父の教え。
あなたは、本当はとても知略に長けた方なのでは…?。」
ジョルジュ「オレが?何故そんなことを思った?」
「カシミア大橋で、私たちがあなたを説得した時…あれは、あなたの計算通りだったのではありませんか?
城の守りをハーディン皇帝に命じられている以上、あの場から動かない名目は立つ。
しかも、私たちアリティア軍から見ればあの位置の弓兵は脅威ではない。
そして、あなたはもともとアリティアとかかわりが深く、ゴードン殿に弓を教えていたお立場…」
ジョルジュ「…買いかぶりだな。オレはそんなたいそうな人間ではない。」
「さらにさかのぼって考えれば…ラング将軍の城の前であなたが動かなかったのも、その布石…
部下がいる以上マルス様へ寝返ることはできない、しかしマルス様とは戦いたくない…
敵であるアリティア軍へその意思を伝えるためにあえて動かなかった…
その行動は後のカシミア大橋で私たちがあなたを説得する行動へつながり、またハーディン皇帝の怒りを買って、城の防衛を命じられることへもつながった…」
ジョルジュ「……」
「もしここまで計算づくなら…あなたには驚かされるばかりです。」
ジョルジュ「…買いかぶりだな。たまたまそうなっただけのこと。
だが…たとえオレがそう読んでもその策は…アリティア軍の協力がなければ成立しない。
お前たちが賢明だと信じることができたからこそ、だ。」
◎ 3 ◎
ジョルジュ「…オレはメニディ家という、まあアカネイアでは結構な名門の出でな。
オレの一族は、とりたてて武才も名声もなかった。ただ、先を見通す目と、権謀術数だけは長けていた。
どちらにつけば勝ち馬に乗れるか、どうすれば相手の心をつかめるか…
アカネイア五大貴族にまで数えられるメニディ家の権力は、そうやって守られてきた。」
「……」
ジョルジュ「オレはそれが好きになれなかった。
やることなすこと全てが計算づく、他人を手のひらで転がすような…そんな真似は不快だ。
もっと何者にも縛られない自由な生き方に憧れていた。」
「それで、ミディア殿とのお話を破談にさせたのですね…」
ジョルジュ「だが、奴らに言わせれば、オレもその血を引いているらしい。
お前に見抜かれたとおり、オレの根底には冷たい打算がある。
一族のような打算を嫌悪しながらも、その打算に頼らざるを得ない…それがオレだ。
部下を守り、ニーナ様を守る…そのための最善手を探すオレは…人を駒としか見ていない。」
「ジョルジュ殿…教えてください。
先を見通せるあなたの目には、この戦争の結末はどう見えています?」
ジョルジュ「メニディ家の人間は勝者を間違えない。勝つのはマルス王子だろうよ。」
「良かった…」
ジョルジュ「だが、それはお前が無事でいればの話だ。
、お前は死ぬな。時には逃げても構わん、だから…必ず生きのびて欲しい。」
「な、何故私にそこまで…?」
ジョルジュ「お前に好意を持っているから…といったら信じるか?」
「い、いいえ、ジョルジュ殿のことですから、何かきっとお考えが…」
ジョルジュ「……。そうだな。これもしょせんは打算だ。理由は好きに思っておけ。
だが理由はともかく、お前には生きていて欲しい… (※ここで微笑…。)
そう考えている人間がここに一人いることは憶えておいてくれ。」
「ジョルジュ殿…」