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'99 火山砂防フォーラム in フィリピン 参加報告

T はじめに

 雲仙普賢岳の悲劇を契機に毎年各地で開催されてきた『火山砂防フォ−ラム』が、本年フィリピンで開催され、有珠山周辺からは虻田町長、壮瞥町長が参加した他、昭和新山生成50周年記念事業に携わってきた4名が参加。今世紀最大の噴火を起こしたピナツボ火山地域及びルソン島の主要火山であるタール火山、マヨン火山を訪れた。

 ここに今回のフォーラム参加について報告する。

U フォーラムの概要

  ・ 主 催: 火山砂防フォーラム委員会(委員長 吉岡庭二郎 長崎県島原市長)
  ・ 共 催: JICA(国際協力事業団)、フィリピン公共事業道路省
  ・ 年月日: 1999(平成11)年10月21日(木)前日、火山砂防施設、再定住地域視察
  ・ 場 所: ホリデーインリゾート クラークフィールド(アンヘレス市フィリピン)
  ・ 対 象: 火山砂防フォーラム委員会関係行政機関、民間
  ・ 参加者: 日本側100名、フィリピン側50名 計150名
   (壮瞥町からの参加者 山中町長 三松三朗氏 中浦武氏 阿野洋二郎氏 田鍋敏也)

  ・ 概 要: 火山砂防フォーラムは、火山をかかえる全国の自治体を会場として開催されている。第9回目(99年)は雲仙普賢岳と同じ年に今世紀最大の火山噴火災害に見舞われ、日本の技術、投資で展開されている砂防事業やフィリピンの予・警報システム等を現地で視察することを目的にピナツボ火山の麓において開催された。

V フォーラムに参加して(ピナツボ火山噴火災害と復興状況を中心に)

 1 噴火の記録と経過
  ・ 過去の噴火記録がない(炭素年代調査により400〜600年前に火砕流堆積物を噴出した噴火があった)。
  ・ 1991年4月上旬 火山性地震が観測されたことによりフィリピン火山地震研究所(PHIVOLCS)と米国地質調査所(USGS)が総力を挙げて調査、観測
  ・ その結果をシュミレーションしてハザードマップを作成、防災体制を整備
  ・ 6月 8日(噴火前日) レベル5(24時間以内に爆発的噴火の可能性有り)の警報を発表。ピナツボ地域に住む先住民(アエタ)をはじめ、山麓住民、クラーク基地の米軍など緊急避難(60,000人)が実施された。
  ・ 6月 9日 噴火開始
  ・ 6月15日 最大噴火の結果、ピナツボ火山の山体は山頂部400m(火口底までは800m)ほどが崩壊、高温の降下火砕流がピナツボ山周辺に厚く堆積し大量の火山灰が降下した。火砕流堆積物の総量は67億立法メートルと推定。上流部では堆積厚は200m以上にも達し、ピナツボ東部河川では、降雨時には高温の泥流となって下流域に流下。全方位河川流域50km圏を土石流が襲った。
  ・ 10月 大規模二次爆発により、パシグ川で甚大な泥流災害が発生。
  ・ 現在も、土石流対策と再定住者への支援活動は続いている。

 2 政府の対応

 フィリピン国政府は、噴火直後より全力を挙げて救助活動を実施。総数60万人とも推定される被災者救済を主目的として1992年10月に大統領府直属のピナツボ山災害復興委員会(Mt. Pinatubo Commission MPC)を組織する一方、泥流防御施設の建設は公共事業道路省(DPWH)により実施してきた。

 ・ MPC: 2000年12月までの期限付き設置
   主な事業:大統領宣言1201に規定されている。
 ・ 再定住コミュニティ内の生活支援センター活動の支援
 ・ 再定住の支援、再定住地の管理を国、地方政府機関に引き継ぐ
 ・ 再定住地の道路、電気、ガス、水道施設の整備、再建、修理
 ・ 被災民の社会参加の促進

3 フォーラムに参加して(まとめ)

1) フィリピンにおける災害復興

 少ない関係機関で、機能的な災害復旧、復興事業を実施している。
 ○ 観測機関  的確な観測と情報提供
 ○ 政府(公共事業道路省) 河川、道路等の災害復旧、復興
 ○ MPC   被災民救済、地域の復興
 MPCのような組織は、日本では過去の災害において存在せず、その役割は実質的に各都道府県、市町村が担う。日本における省庁間の縦割りの弊害がない。

2) フィリピンにおける火山防災

 @ 観測機関の科学的情報が地域防災にダイレクトに生かされている

 観測機関が科学的情報をもって、住民の避難計画・誘導に直接関与しており、今世紀最大規模といわれるピナツボ火山噴火でも直接的(噴火当時)な死亡者はわずかで、避難先の教会の降灰による倒壊で300人余が死亡したのが主である。これは、予・警報システムの成功例といえるのではないか。

 その後のラハールなどで死者数は1999年現在で約900人。

 また、観測機関が、科学情報を十分考慮に入れた短期、長期の適切な土地利用(計画)の必要性を訴えている。

 A 火山ごとに警報レベルが決定されている

 フィリピンでは、活動する火山ごとに警報レベル(5段階)が決定されており、レベルが公表、周知されることにより、住民は容易に、現在の火山の危険レベルを知ることができる。住民の側にたった情報提供が日本でも必要である。

3) 火山周辺地域の土地利用 

 今世紀、世界最大規模といわれる噴火被災地域を実際に訪れ、人間の予想をはるかに超えた災害を目の当たりにし、人間の存在がいかに小さなものか実感。火山周辺地域では、過去、その地域で起こった地形の変動や火山噴火史等、科学的根拠を持ち、かつ長期的展望にたった土地利用計画が必要である。
 日本では、災害の爪跡は修復、現状に復元されるのが一般的である。ピナツボ火山から遠く38km下流のバコロール市にある教会は、1995年10月の台風により6.6mのラハールに埋没した。現在は、そのまま2階部分を1階として利用し、その姿が新たな観光名所ともなっている。
 有珠山周辺に多数存在する災害の爪跡を、次代に語り継ぐ大切な遺産として、また、教育的、観光的な資源として再評価する必要がある。

4) その他(情報交換)

 火山をかかえる自治体の首長、担当者、民間(住民の一般参加)等幅広い分野から多数の参加があり、情報交換、情報の共有ができたことも有意義であった。

 

※ 今後、壮瞥町のまちづくりを進める上で今回の経験を生かしていきたい。
  また、この勉強会の様に、行政関係者を含め幅広い分野の人々が参集し、議論し、かつ、学習の場が与えられたことに感謝する。