お 酒   by クリオネさん



 「あ〜。疲れたぁ。 ちょっと一服、一服…。」

 警視庁捜査一課の高木ワタル巡査部長は、殺人事件の初動捜査の為、
 上司である目暮警部に付いて、午前中から現場に出張っていた。

 捜査は少々手間取ったが、夕方には一段落着き、高木は帰庁する為に車に戻るところだ。

 目暮警部は、まだ、「たまたま」現場に居合わせた毛利探偵と何やら話しているので、
 車の中で待機しながら一服する余裕くらいはあるだろう。

 高木は車に乗り込むと、ほっとして煙草に火を点けた。
 深く吸い込んだ煙をふぅ〜〜っと吐いた後、
 はっと何事かに気付いた高木は、
 急いで私用の携帯電話を取り出し、着信をチェックする。

 「メールが来てる…」

 液晶画面に「着信があります」と表示されており、高木の胸は急激にときめいた。
 焦る指にちょっと苛つきつつ新着メールを開いてみると、
 高木が期待した通り、発信者名に『佐藤さん』と表示されている。

 きょう、先輩刑事の佐藤美和子警部補は非番だ。
 その美和子が、最近では、非番の日には時折こうしてメールをくれるようになった。

 丁度、高木が、この現場に到着した頃送られたメールなので、
 もう見ても間に合わないかもしれないと思いつつ どきどきしながら表示させた本文は、

   今から、昨日、高木くんが言っていた映画を観に行きますv  
   高木くんは、きょうは聞き込みだったよね?           
   新たな事件で借り出されてないと良いけど^^         


 という内容だった。

 高木は、じぃ〜〜〜ん、と感動に打ち震える。

 後半の自分を心配してくれる言葉も勿論嬉しいが、
 今から映画を観に行く、という「普通の事」を、
 自分が美和子から連絡して貰えるという事が、とても不思議な気がする。

 オレが佐藤さんにとって身近な存在になれた…という事…だろうか?
 …も、もしかして これが「付き合っている」ってことかな?
 そう思うだけで顔がかっと熱くなった。


 そう言えば、初めて佐藤さんの携帯からメールが届いたのは、あの時だったな。
 苦笑を洩らしながら、高木は もう1年以上も前の事を思い出していた。



 ――― その夜、
 高木は捜査資料をまとめる為に残業していた。

 そして、高木の携帯電話がメールの着信を告げたのは、
 高木がそろそろ切り上げようと、整理していた書類をキャビネットに戻し始めた時だった。

 「また、由美さんじゃないだろうなぁー。」
 イヤな予感がしたが、ともかくメールを見ると、
 発信者欄には、なんと『佐藤美和子』とあるではないか。

 「え?佐藤さんがオレにメールを?」

 ドキッとした時には、既に顔が赤くなっている。
 先輩の美和子とは、仕事上、電話で話すことは多いが、メールをもらったことはなかった。

 「何でメールなんだろう?」と思うが、ともかく嬉しい。
 (メールなら保存できるぞ。佐藤さんからのメール!…一体、何だろう?) 
 高木は、はやる気持ちを押さえ、メールの本文を表示させる。

   相談したいことがあるの。   
   良かったら「BALLAD」に来て。 
   9時まで待ってるわね。     


 (・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 高木はメールを見て固まっていた。

 (相談したいことがある…。・・・・・来て。・・・待ってる。・・・・・)
 (な、何か凄く、想わせぶりじゃないか?)

 ひとりで勝手に照れていた高木は、次の瞬間、ハッとして時計を見た。
 現在時刻は8時35分。

 BALLADは、本庁から20数分程のところにあるスナックだ。

 高木は、慌てて書類をキャビネットに詰め込んだが、
無茶苦茶に入れたせいで鍵が閉まらず、
 もう一度出してキチンと入れ直さねばならなかった。
 自分の机の上を、ざっとひとまとめに片付けると、高木は上着を手に捜査一課を走り出る。


 高木がBALLADの前に着いた時、時計は8時52分だった。
 書類を片付けた時間もあるので、
 20分以上かかるところを15分弱で着いたわけだ。

 高木は扉を開ける前に、汗を拭き、息を整える。

 (この中で、佐藤さんがオレを待っている。)

 …でも、本当かな?
 一瞬不安がよぎるが、
 最後にもう一度大きく深呼吸をしてから、高木はBALLADの中に入った。

 (さ、佐藤さんだっ!…本当に待っててくれたんだぁ♪)

 カウンターに美和子の姿を見つけ、高木の胸が高鳴る。
 「さ、さ、佐藤さん!」

 「高木くん…来てくれたのね。 待ってたのよ。」
 と、嬉しそうに美和子が迎えてくれるかと思いきや…

 「えっ?高木くん?…どうしたの、こんな所に?」
 目を大きく見開いた美和子は不思議そうに振り向いた。

 「え?どうしたのって…佐藤さんがメールで…。」
 「メール?私が? …ううん。私、メールなんか打ってないわよ。」
 美和子はきっぱり否定した。

 「ええ〜〜〜〜っ?
 だって、送信者、佐藤さんでしたよー?」
 「そんなこと言ったって…。」
 言いながら美和子はポケットから携帯電話を出し、発信履歴をチェックする。

 「あらぁ〜。…本当ね。高木君にメール送ってるわ。
 なになに?相談したいことがあるの…?
 やあねぇ。高木くんに相談なんか、あるわけないじゃないのねぇ〜。」
 あっさりと笑う美和子に、呆然と立ちすくむ高木。

 「そんな所に立ってないで、ともかく座りなさいよ。」
 進められて高木がおずおずと隣に座ると、美和子は
 「高木くん、何にする?」と聞く。
 「いえ。僕は…。」

 美和子に呼び出されたつもりで勇んで来ただけに、ちょっと拍子抜けだ。
 しかし美和子の方は、高木が突然現れた事を迷惑がることもなく、
 むしろ喜んでいるような気もする。
 「折角、来たんだから少しくらい飲みなさいよ。…おごるから。」
 「いえ、自分で払いますよぉ。」
 言いながら、高木はビールを注文した。

 「でも、さっきのメール…どういう事なんでしょうね?」
 美和子があまり不思議がっていない事も不審に思いつつ高木が聞くと、彼女は苦笑した。

 「由美よ。…きっと、由美の悪戯だと思うわ。
 さっきまで、ここで一緒に飲んでたの。
 それが10分前くらいだっけ…急に『用事を思い出した』って帰っちゃたのよね。
 しかも、最後に私用にソルティ・ドッグなんか注文して
 『先に帰るお詫びね〜♪』なんて言うから…おかしいとは思ったのよ。」

 ふふ、と笑った美和子が急に真顔になり
 「でも、何で高木くんを呼んだんだろ?」と首を捻った。

 その理由には心当たりがある高木は
 「そ、そうですよねぇ。」と誤魔化す他ない。

 (ゆ、由美さぁ〜〜ん。
 こんな場所で、佐藤さんとふたりっきりにされても…何話せば良いんですかぁ〜?)
 焦りまくりの高木だが、嬉しくないわけではない。
 美和子の隣にキチンと座った高木は、ビールを飲みながらにこにことしてしまう。

 「あ、あのぉ。佐藤さん…由美さんと、どんな話してたんですか?」

 「ん〜〜?由美と?…そうねぇ。」
 話そうとした美和子の顔に『あれっ?』という色が浮かんだ。

 「なんだか…結構、高木くんの話ばかりしてたわね。」
 「え?ぼっ、僕の話ですか?」
 赤みが増す高木の顔を、まじまじと見ながら美和子は言った。

 「由美って、もしかして…高木くんのコト…好きなんじゃない?」

 「よ、よしてくださいっ!」
 咄嗟に高木は、立ち上がっていた。
 そして、すぐにハッとして、再び腰を下ろす。
 が、時既に遅く、親友に対する高木の失礼な態度に
 美和子は片方の眉を釣り上げて高木を睨んだ。
 「何よ?由美じゃ不服?」

 (あ、その顔も可愛いですよ〜♪ …って、そんな事言ってられない!)
 「い、いえ。不服とか、そんなんじゃないですよ。
 でも、由美さんが僕のコト…なんて、あるはずないじゃないですか。
 由美さんは、僕のコト、からかって遊んでるだけなんですよぉ。」

 「そうかなぁ?」
 言って、美和子は、ますます高木の顔をじっと見つめた。
 「さ、佐藤さぁ〜〜ん。」
 高木の引きつった笑顔に大粒の汗が浮かんでいる。
 「ん?」
 「そ、そんなに見つめないでくださいよぉ〜。」
 「え?」
 美和子の瞳は明らかに(どうして?)と問うている。

 (こ、このヒト…本当に…ニブ過ぎる〜っ。)
 好きな女性から至近距離で見つめられ、高木の顔は茹でたように赤くなっている。
 (…でも、分っちゃうよな? いくらなんでも。)
 自分の気持ちが美和子にバレる事を覚悟し、
 それなら思い切って、こちらからはっきり告白しなければ…と高木が考えた時、

 「まだ…ビールひと口よね? 
 このくらいで、そんなに赤くなるはずはないし。 と、言う事は……」
 高木が飲んだビールの量を確認した美和子は、いきなり高木の額に手を当てた。
 「高木くん、熱あるんじゃない?」

 美和子は、高木が思ってた以上にニブかった。

 「熱なんて無いですっ。」
 高木はガックリ来て、ムキになって否定する。
 
 「でも、顔真っ赤だし、熱いわよ? …やっぱり熱があるのよ。
 もう帰って休んだ方がいいわ。 送ろうか?」
 「さ、佐藤さん、違いますって。」

 確かに、美和子に触れられて、いよいよもって顔が赤くなっているのは自分でも分るだけに
 それを風邪か何かと勘違いされるのは、なんとも悲しい。
 第一、高木としては、いくら由美の策略と言っても、
 折角、美和子とふたりでいられるチャンスを無駄にしたくはなかった。

 「本当〜?」
 美和子は疑わしそうに、高木の顔に自分の顔を寄せる。
 目と目の距離は、僅か数センチ。
 鼻など、くっつきそうだ。
 「さ、とう…さん…。」
 高木が、苦しそうにうめいて逃れようとすると、美和子はすっと離れた。

 「ま、本人が違うって言うんなら良いけど…無理しないでよ?」
 「はい。」
 「まだ、しばらく飲んでいく?」
 「ええ。 だって、僕、まだ来たばかりですよ。」
 汗を拭きながら高木が答えると、美和子は「そうよね。」と笑った。

 (オレ、良く頑張ったよな?)
 高木は自分で自分を誉める。
 いつもは、ここで言われるままに帰ってしまって、後で後悔してしまうのだ。

 「それじゃあ、私は先に帰ろうかな。」
 「はい。
  …えっ? え〜〜〜〜っ?!」
 「高木くんは、ゆっくりして行ってね。 でも無理しちゃ駄目よ?」
 高木のビールの分も記入された伝票を持って美和子は立ち上がった。

 「ちょ、ちょっと待ってください。」
 高木は思わず声を掛けていた。

 「んっ?」
 「佐藤さん…時間ないんですか?」
 「え?別に、そんなワケじゃないけど?」

 「もう少し…付き合ってもらえません?」
 高木にしてみれば、清水の舞台から飛び降りるような一言だった。
 だって…、折角頑張ったのに、ここで佐藤さんが帰ったら意味ないじゃないか。

 「え、ええ。良いわよ。」
 美和子は、もう一度、座り直した。
 「ただ、ほら…。これ以上飲むと、私、多分、悪酔いするらしいから…。」
 少し恥かしそうに肩をすくめる美和子に、
 高木はやっと自分のペースを取り戻せた気がする。

 「ビールもう一杯くらい、良いんじゃないですか?」
 「う〜ん。やっぱり、お酒はやめておくわ。
 実は3日前も千葉くんにかかえられて帰ったらしいし…。」
 「え〜?千葉と飲んだんですか?」 

 (聞いてないぞー!)と高木が怒りかけた時、美和子がそれを否定した。
 「ううん。由美とよ。…で、酔いつぶれた私を送る為に、由美が千葉くんを呼んだんだって。」

 「佐藤さん、また、酔いつぶれたんですか…?」
 「あはは。どうも…ね。由美と飲んでると、いつの間にか…。」
 さすがに気まずそうだが、もうひとつ本質を捉えていない。

 「由美さん…わざと佐藤さんを酔いつぶしてませんかね?」

 「え〜?まさか。…だって、そんな事したって面倒増やすだけじゃない。」
 「もしかして…、3日前も、千葉を呼ぶ前に僕を呼ぼうとしませんでした?由美さん。」
 「さあ? あっ、そう言えば、耳元で何か由美が何か叫んでたような気も…。
 『高木くん、携帯切ってる〜』…とか。」

 「…やっぱり…。」

 高木は大きな溜息をつく。
 「やっぱり…って?」
 「え?いえっ、別に…。」
 「………?」
 美和子には、何のことか、さっぱり分からないようで
 不思議そうに高木の顔を覗き込んだ。

 (やばい。このままじゃ、さっきの失態の繰返しだ。)
 焦った高木は、とりあえず何らかのアクションを取る必要に迫られていた。

 「さ、佐藤さんっ、全然酔ってないじゃないですか。
 ビール少しくらい飲んでくださいよ〜。」
 高木は、先程、美和子が手で蓋をして高木の勧めを断わった彼女のグラスへ
 ビールを注ぎ込む。

 「あらら…。」
 ビールを注がれてしまった自分のグラスを見て、一瞬呆れた顔をした美和子は、
 いたずらっぽく高木に向ってウィンクをした。
 「じゃあ、私がつぶれたら、高木くん責任取ってね♪」
 「そんな、たったグラス一杯で…。」
 はは…と笑って、高木は美和子が差し出したグラスに自分のグラスを当て、
 乾いた喉にビールを流し込む。

 「で、高木くん…。」
 「はい?」
 美和子の声の調子が、少し変わったのを気にしながら高木がグラスを置くと、
 美和子も半分ほど飲んだグラスを置いて高木に向き直った。
 「高木くんは由美のこと、どう思ってるのよぅ?」
 その眼つきが、明らかに先程までと違う。

 「え・・・・?」
 (まさか、佐藤さん・・・?)
 「なぁ〜〜んか、由美の話するとぉ、いっつも慌てちゃったりしてなぁ〜い?」
 (佐藤さん・・・ビールグラスに半分で・・・急に酔っちゃった?)
 高木は、目が据わり、ろれつが怪しくなった美和子に慌てた。

 「さ、佐藤さん? 大丈夫ですか?」
 「何が大丈夫ですかぁ〜、よ? 聞いた事に答えなさいよ、高木ぃ!」
 高木に絡みながら、美和子は再びグラスを口に運んぼうとする。

 「佐藤さん・・もう、飲まない方が・・・」
 さっきまでとは違った引きつり方の笑顔を顔に貼り付けた高木が、
 取り上げようとしたグラスを、美和子はグッと傾けた。

 「あっ・・・」
 次の展開を怖れながら高木が美和子を見守っていると、
 案の定、美和子はいきなりパタリ、とテーブルに突っ伏す。
 「たかぎのばぁ〜か・・・」

 この言葉が酔っ払いのタワゴトか、はたまた寝言かは分からない。
 高木が恐る恐る確認したところによると、ともかく、この時点で
 美和子は安らかな寝息を立てていた。


 (ゆ、由美さん、まさか、佐藤さんのお酒の上限知ってて・・・?)
 由美は、美和子が上限を超えた途端に急変することを知っており、
 しかも、その量を熟知していてソルティ・ドッグも選んだのであろうか?

 恐るべし宮本由美!

 高木の顔には相変わらず引き攣った笑いが貼り付いたままだった。


 この後、高木は、美和子を自宅まで送って行き、彼女の部屋に運び入れると
 お茶を勧める美和子の母親の申し出を丁寧に断って帰宅した。

 以前、誘われるままに上がりこんだことがあったが、
 どうやら彼女に気に入られたらしい高木は、しきりに娘の話をする母親の前で
 汗びっしょりになりながら緊張の数時間を強いられた。
 しかも、その後、カラオケのお供をさせられ、心身共ににクタクタになって帰宅した高木は
 次の日の朝一の会議に遅刻して、
 目暮警部にどやされたという苦い思い出があるのだった。


 自分のアパートに戻る途中で、高木はふと思い出して携帯を取り出した。
 「これ…佐藤さんからじゃなかったんだ。」  

 発信者欄の美和子の名前。
 大事に保存するつもりだったが、由美の悪戯なら保存するのも悔しい。
 …が、、いざ消去するとなると少し心残りを感じる。
 「佐藤さんの名前だというだけで…。」
 自分の気持ちに苦笑しながら高木は消去ボタンを選択した。


 「くそうっ、今度は本当に佐藤さんからメールを貰いたいな。」
 そう呟いた後、高木はふっと気付いて慌てて付け足す。
 「仕事のメールじゃなくて…今回のようなお誘いメールを、ですよ、佐藤さん!」


 ――― そして今度は、最初の乾杯から始めるのだ。

      各テーブルに蝋燭の明りが揺れるような…。
      そんなしっとりとした店で、二人でグラスを合わせたい。
      そう。BGMはバラード。
 
      蝋燭の明りの中で微笑む佐藤さん…とても綺麗ですよ…。

      すっかり妄想モードに入った高木は、
      美和子がグラスを口に運ぼうとするところまで妄想した時、
      慌てて彼女を止めていた。

      「佐藤さんっ、ソルティ・ドッグは止めませんか?」




 そんな妄想をした事まで、高木の記憶は鮮やかに甦る。


 そうだ。
 ふたりだけで飲みになんて行った事なんて、まだなかったけれど、
 今晩、佐藤さん、出て来られないだろうか?

 映画はどうでしたか? 
 と、だけ返信するつもりだったけど、その後に、こう続けてみようか?

 きょうは、あと1時間足らずで退庁できそうです。
 一昨日の聞き込みの時に見つけた雰囲気の良いあの店で
 映画の感想を聞かせてくれませんか?

 …… ちょっとオレらしくないかな?
 不安に思いつつも、 高木は思い切って携帯をメール作成モードに切り換える。

 どきどきしながら先程考えた文章を打ち込んではみたが、
 最後に自分が打った文面を確認すると、
 恥ずかしくて、とても送信することはできそうにない。

 でも…
 もし、これで佐藤さんが出て来てくれたら…。 
 送信キーに乗せた指が震えているが、高木は勇気を振り絞って、それを押した。


 高木が「送信しました」の文字を確認した後、
 完全に脱力してしまっていたのは、どのくらいの時間だったのだろう?
 まだ送信キーを押した指がガチガチに硬直していた。

 やっと意識が戻って来たその時、
 高木のうつろな瞳に目暮警部がこちらに向かって歩いて来るのが捉えられた。

 一瞬で覚醒した高木は、慌てて額に浮かんでいた汗を拭き、
 固く握り締めていた携帯電話をポケットにしまうと、車のエンジンを掛ける。

 …と、今ポケットに入れたばかりの携帯電話がメールの着信を知らせた。

 ――目暮警部が車のドアを開けるまであと3秒くらいか?
 高木は急いで携帯電話を取り出し、メールを確認した。

  OK♪ 7時半に一昨日のお店で待ってます。    
   きょうは、酔いつぶれないようにするからね(苦笑)    


 ――あと1秒?
 目の端で目暮警部の位置を確認しながら、高木は思わずふっと笑みを漏らす。

 ――目暮警部、ご到着〜。
 上司の為にドアを開けながら、高木は心の中で美和子に呼びかけた。


    佐藤さん、大丈夫ですよ。
    あの後、由美さんのお陰で、
    僕にも大分、佐藤さんお酒の上限が分って来ましたから。





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おしゃれ!
なんというか、流れる雰囲気が大好きで、
頂いてきちゃいました。
日本酒もいいんですが、
この二人だと、
それは、こたつに入ってやって欲しいな。
由美さんの、策略家ぶりに、
手を叩いてしまった(う)です。
あなたなら、やる(笑)



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