Der Traum



 重なり合った手のひらから、力が抜ける。
 それを最後に、意識は薄れていった。

 彼は、私の知ってる姿ではなく、私も又、いつもの私ではなく。
 ただ同じなのは、この心が、彼を求めて止まないこと。
 とても幸せに、そばで見つめ合う時も、切なさで一杯になりながら、ただ、彼を見つめることしかできない時も。
 あなたは、めまぐるしく姿を変え、私も又、それに応じて、違う私。
 いつも、あなたを見つめてる。
 いつも、心はあなたに向いている。
 きっと、幾度生まれ変わろうと、私はあなたに出会うだろう。
 
 けたたましい音と共に、切なくあなたを見つめていた高校生の私は、そんな時期をとっくに過ぎた、現実に舞い戻っていた。
 慌てて、目覚ましを消し、いつもより薄暗い部屋の中を見渡す。
 レースのカーテンの向こうには、うっすらと積もった雪。
 まるで、思い出を凍らせて、仕舞いこんだような、冷たいグレイの空に、真っ白な雪が舞っていた。
 「ん・・・」という微かな声に、視線を向けると、あなたが、うっすらと目を開けてこちらを見る。
 少女漫画に出てくるような格好良さとか、見目麗しさなんて、無縁だけれど、それでも、私にとって、かけがえのない人がそこにいる。
 胸の中に浮かぶ、温かなものに背を押され、そっと、彼におはようのキス。
 でも、それは、いとも容易く、甘いキスになる。
 体を引き寄せられると、愛しさが溢れて、抱きしめ返してしまう。
 そして、言わずにいられなかった。
 意識が途切れた瞬間から、目覚める瞬間まで、夢の中に、ずっとあなたがいたことを。
 「・・・すっごく、幸せだった!」
 私の言葉に、あなたは、目を丸くして、そして、軽く吹き出すように、でも穏やかに笑いながら、ぎゅっと抱きしめてくれる。
 でもね、ほんとに、心の底から幸せだった。
 だって、眠っちゃえば、お互い、ほんとに、独りなのに、そこに、ずーっとあなたがいたんだもの。ほぼ24時間、あなたと一緒だったなんて!
 こんな風に夢見ることができるなら、毎日だって、手のひらを重ねたい…





 der traum …(独) 夢
夢のような、冷たい朝の、温かな思い。
実は、夢部分は、ノンフィクションだったり…
2005/10/22  by う〜さん