【 雷鳴が聞こえる前に 】
【23】







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 モーテルの外の木の枝にもたれ、睦み合う兄弟を見ている者がいた。



 彼には、何の障害も無かった。


 目を閉じるだけで、壁の向こうも人の心の中も、何もかもが見通せた。


 有から無を、無から有を創り出すことが出来、ゆびを鳴らすだけで何処にでも行けたし、何にでもなれた。


 だからか逆に深い欲はなく、勝手気ままに風が吹くかのように長い永い時間を、擦れ違いざまに軽く肩を叩くように、人々に暇つぶしのイタズラをしながら生きてきた。




 ふとした事から出会ったハンターの兄弟に、彼は珍しく興味を抱いていた。

 互いに深く信頼しあい、愛し合っていながら擦れ違い、そして互いを犠牲にし続ける兄弟。

 自ら火中へ飛び込み、誰かを救おうと全力で戦っても、貰えるご褒美はほんの僅かだけ。


 それでも彼らは生きることを止めず、互いを信じて愛することを繰り返す。


 何も障害のない彼にとって、面白いほどに様々な障害にぶち当たり、その上自ら障害に立ち向かっていく彼らは不可解以外のナニモノでもなかった。


―しかし、仲良すぎだ、お前ら。

 深くため息を吐く。


 未来が見渡せる彼は、この先兄弟がどんな運命を辿るのかを知っていた。

 これから現世と地獄とで、離れ離れの世界になるっていうのにさ。

 余計愛を深めちゃいやがって、これじゃあまた、余計つらいじゃないか。



 ヒトが親切にも、わざわざトレーニングさせてやろうと思ったのに。

 彼は、自分でも意外なのだが、多少なりとも兄弟に好感に近い感情を抱いていたらしい。

 される側的には理解できないほどの大迷惑ながら、これが彼なりの親愛の情を込めたアクションだったようだ。

 あーあ、と呟いて木から飛び降りると手に持っていた傘をたたみ、ふわり唐突に現れた美女と豪奢なリムジンに乗り込みながら。


 肩を落として、人知れず。トリックスターは去っていった。















【END】

















続きは「朝焼けが消える前に」のよてー
ひたすららぶらぶ(死語)のよてーです