【 雷鳴が聞こえる前に 】 【22】 |
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目を開けると、目の前にサムの顔があった。
ぱちぱちと瞬きを繰り返す。すると、目覚めた気配に気付いたのか、サムは薄く目を開けた。
同じように瞬きをする。ようやく焦点が合ったのか、ディーンをまじまじと見つめ、おはようディーン、と笑って呟く。
あぁ、と言って起き上がろうとするが、身体がギシギシいってうまく動かず、まるで油の切れた機械のようだった。だが起きられないとは思われたくなくて無理に起き上がる。
まだ寝てたら?と言われていや起きる、と頑固に言う。
そう?と心配そうに覗き込むサムも、自分も何も着ていない。
サムの方は昨日の激しい行為も全く堪えていないのか、よいしょ、と言いながら身軽にベッドの下に落ちたTシャツと下着を拾っている。これが四歳の差って奴かとディーンは少し落ち込んだ。
ふと見れば、腕にはディーンがしがみ付いた指の跡がうっすらと付いている。どうしていいのかわからなくなり思わず顔を背けるが自分自身の身体を見下ろせば、サムのキスマークとあろうことか噛み痕がまでもが付いている。責められる余地はないと思った。
「…どうしたの?」
とりあえずTシャツとボクサーパンツを着込んだサムが覗き込んでくる。
「…何でもねえ」
「嘘。まさか何処か痛い?苦しいの?」
僕やり過ぎた?と言いながら心配そうに見るのならば、昨日のようにサドッ気全開で苛めるのはもう少し後にしろよとディーンは呆れ気味に思った。
「ディーン?何とか言えよ」
心配なんだ、というサムの顔は子犬そのもので。そんな顔で心配されれば、ディーンは苦笑するしかない。
「サム」
「何?」
「キスしろよ」
え?と面食らったサムの代わりに、チュ、と触れるだけのキスをする。
目をぱちくりさせている奴に、今度はハグしろよ、と強請ってみる。
冗談で言っているのではないことが分かったのか、苦笑してサムは手を広げて、大きな暖かい体でディーンをそっと包み込んでくれた。
そうされるだけで。兄弟で抱き合うことの禁忌も、今までの全ての不幸も。全てが、何ひとつ必要がなくなった。
サムがいれば、それだけでいい。
鼻先に触れる柔らかいサムの髪。そのくすぐったさと慣れ親しんだ弟の懐かしい匂いに、例えようもない幸福感が、ディーンの身体中をゆっくりと満たした。
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