【 雷鳴が聞こえる前に 】
【19】













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「ディーン、まだ無理だって!頼むから、せめてもう1日だけでも」

「検査は終わったんだし、どうせここにいても安静にしてるだけだろ?どこのベッドでも同じことだ」

 翌々日の朝に検査の結果が出るのを待って、異状なしの通知を受け、さっそく検査着を脱ぎ棄ててシャツを着込むディーンにサムは懇願していた。

「本当に心臓が止まっていたんだよ!?急ぐ理由なんてないし、もっと自分のことを労わるべきだ」

「もう十分に労わったし、食事はマズくて病室は退屈でおまけに看護婦はイケてなくて、ヘドが出そうだ。モーテルで休んでた方がずっと早く治る」

 すっかり支度を整えて、荷物を持とうとするディーンから、ため息を付きながらそれを取り上げる。

「あ、支払いはお前が済ませてこいよ?」

 ニカッと笑って言うディーンに、肩を竦めて返す。本当に言い出したらディーンは梃でも言う事を聞かない。

 ため息をついて廊下へ出ると、診察してくれた医師と出会った。

「あぁ、弟さん。お兄さんが退院したいって騒いでいるそうで?」

 呑気に話し掛けてきた主治医であるらしい若い医者に、申し訳なさそうな顔でサムは答える。

「すみません、したいというか、退院させてもらいます。兄がもう大丈夫だと言い張るもので」

 そう言いながら廊下の先を少しふらつきながらも元気に行く兄の姿を指差す。

それに目をやって、そうですか、無理には止められませんが、…と医師は呟いた。それから、薬だけは1日3回忘れないように飲ませることと、呼吸困難や不整脈の症状が出たらすぐに病院へ来ることなどを言い渡し。

ディーンの後姿と目の前のサムとを見比べて、考えた末、サムの方へ寄って耳打ちをする。

「…えーとちょっと聞き及んだんですが、心臓に負担がかかるような性行為はしばらく禁止ですから」

 するなら出来る限り負担のない形で、とにっこりと小声で付け加えてそそくさと医師は去って行った。通り過ぎる看護婦の、視線がなにやら痛い。しばらく、サムは硬直して動けず、石になっていた。

 兄弟でナニゴトかしていると思われたのか、兄弟というのが名目上だと思われたのかは分からないが、微妙にもう何かイロイロ知れ渡っているらしいこの病院には来難い。どちらにしても移動するなら来られないから、カルテをもらっていって、何かあったら別の病院に駆け込もうとサムは兄の後姿をよろよろと追い掛けながら心の中で固く決意した。

 

 兄の心臓に負担をかけまいと、サムの恐ろしいまでの安全運転により、インパラはすぐ近くのモーテルへと直行した。病院が余程嫌だったのか、それでもディーンから文句が出る事もなく、兄弟はチェックインした部屋に落ち着いた。

 すぐさまベッドに横になり、ゆっくり休むようにサムに厳命される。

 それに対してもへえへえ、などといって、大人しくジーンズとシャツを脱いで横になる。

 それを見て安心したように隣のベッドでパソコンを取り出して起動したサムを、ディーンはじっと見つめていた。












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