【 雷鳴が聞こえる前に 】
【17】













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Returnd first day

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「…ィン、ディーンッッ!!!

ハッっと気付く。シャワーのように顔を打つ雨に痛みを覚え、瞬間的に目を閉じる。

再び目を開けると、そこには真上から刺さるように降る強い雨粒と共に、これ以上ない程固い表情で覗き込む、サムの姿があった。

「サ…ミ…」

喉が凍りついたようにうまく声が出せない。

だけれどもそれを耳にしたサムは、心底安心したかのように顔を歪ませて、ぎゅっとディーンを抱き締めた。

「良かった…!探しに来たら、倒れてるから、………触れたら、心臓が動いてなくて必死に蘇生したけど…もう、ダメかと……」

神様……!と呟くサムの切れ切れの涙声を、耳元で抱き締められたまま聞く。大丈夫だから泣くな、と言ってやりたかったけれど、うまく喉が動かなかった。

 

落雷で倒れたのは、サムのほうだった筈なのに。

だが、サムの言う事を補完するかのように、指先までびりびりとした痺れる感触と、心臓の痛み、呼吸の苦しさを感じる。

そんな苦しさとは裏腹に、触れるサムの体温に心から安堵した。―サムは生きてる。

ゴロゴロゴロ…と再び黒い雲の奥で不穏な雷が地鳴りを立てている。

気付いて、濡れて冷え、ずっしりと重い身体をサムに助けられながらどうにかして起こす。

「車へ…急ぐぞ」

掠れた声でそれだけを告げると、心配そうに起きるのを手伝ってくれたサムは、このままここにいては危険だということを理解したのか、無言で頷いて肩を貸してくれた。

苦しげに脈打つ心臓を抱え、サムに半ば抱えられるようにして斜面を降りる。

何とか再び雷が落ちる前に、麓の道沿いに止めた車まで辿り着くことが出来た。

 

無言で助手席に座らされ、びしょ濡れの上着をはがされて取り出したタオルで顔や体を拭われる。ぶるっと奮えて身体に少しだけ熱が戻るのを感じた。大判のタオルに包まれて息を吐く。

自分は殆ど拭く事すらせずに、顔と手だけを拭って勢いよくエンジンを掛け、暖房を入れるサムの横顔は固い。

ギアを入れながら、サムは一瞬だけこちらを見た。

「大丈夫だから。…絶対、ディーンは死なせない」

強い視線で、だらりと投げ出したディーンの手を、一瞬だけ大きな手でギュッと握りこまれる。

自分の手はこんなにも冷えているのに、サムの手は驚く程熱かった。

猛スピードで走り出したインパラの中で、サムの言葉と熱に安堵の息をついて、それを最後にディーンの視界は暗くなった。

 

**********

 

次にディーンの目に映ったのは、真っ白い天井だった。

鼻につく消毒薬の匂いで、ここが病院だと言う事が分かった。

何度か瞬きをして軽く指先を動かしてみる。先程までのピリピリとした痺れは無くなっていた。口元に付けられているのは酸素マスクのようだ。邪魔なそれをどうにか外す。

ゆっくりと首を曲げて周囲を確認する。ここは個室のようで他のベッドや患者は見当たらない。

―と、ベッドの左側に。サムが、腕を組んでうとうとと眠っているのが目に入った。

髪はぼさぼさだし、目の下は黒ずんで、痛々しい程に憔悴しきった様子に胸が痛む。

おいおいイロオトコが台無しだぜ?そう言ってやろうと思って声を出そうとすると、うまく言えずに、むせて咳き込んだ。そうして身体に力をこめると、全身が筋肉痛のように痛む。

咳に気付いたのか、目を覚ましたサムが慌てて駆け寄る。

「ディーン!?今、先生を呼ぶから!!

ナースコールを押すサムの手に、ディーンは震える手を伸ばす。すぐさまぎゅうっと握り込まれて心から安堵した。

口の端だけで大丈夫だと言葉もなく笑ってやると、サムからは泣きそうに情けない笑みが返ってきた。

 

落雷は、直撃したわけではなかったらしい。

「えー、ジョン・ボーナムさんですね。心臓へのショックはありますが、雷が側撃で、恐らく身体の右半分へ流れたことと、後は人工呼吸と心臓マッサージが素早く的確だったことが幸運でした。今回の落雷では数人運ばれてお亡くなりになった方もいらっしゃるので、本当に、運が良かったですね。検査の結果、今のところ神経系や脳への後遺障害もなさそうです。まだ若いですし、心臓への負担は投薬で徐々に回復するでしょう」

ダメージを受けた心臓の働きを助ける薬なので、飲むのを忘れないよう、それから飲酒と喫煙と激しい運動は控え、無理をせず安静にして規則正しい生活を心がけるようにと言って、1週間の退院の入院を言い渡して、まだ若い学生のような医師は出て行った。

それを聞いて安心した様子のサムを見ていたら、ふと眠気が襲ってきた。

「…良かった。ホントに……ディーン?眠いの?そばに付いてるから、ゆっくり休んで……」

頷いて目を閉じる。はじめて入院した子供のように、握ったままだったサムの手だけは、眠りに落ちる時も不安で離せずにいた。












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