【 雷鳴が聞こえる前に 】
【13】













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「ずいぶん長かったけど、大丈夫?ほら、水」

ほかほかと体から湯気を立ち上らせ、よろめく足でディーンはベッドにどさりと突っ伏す。タオルを腰に巻いただけのラフな格好で出てきたのは、彼のいつもの習慣なのだろうか。

心配して水を差しだしたサムにサンキューサミー、と呟いて彼はボトルを煽った。

サミーと呼ばれて、思わずサムはきょとんとする。そんな呼び方は幼い頃に父にされたきりだった。

しかし呼んだ当人は自分がそう言った事にはちっとも気付いていないらしい。

水を飲み終わると目を閉じて、はぁ…、と息を吐いて気持ち良さそうにベッドの上で身体を伸ばしている。腰に巻いて出たタオルの結び目がずれ、殆ど全裸の状態になっているのにも気付かないらしい。

ディーンが目を閉じている事をいい事に、サムはじっとさっきから考えていた、目の前の謎だらけの彼を見つめた。

日に焼けない質なのか、ミルクを溶かしたような肌色をピンクに染めた、ディーンの身体は彫刻のようで純粋にとても綺麗だった。滑らかで触り心地の良さそうな肌。自分とは肌質が違うな、と思う。兄弟でも体質が違う事はよくあるけれど。思わずまじまじと見てしまうが、ディーンは一向にそれには気付かずうとうふとするように伸びたままだった。

と、見つめるサムの目の前で、ふぅ、…と息を吐いて軽く唇が開く。ぷっくりとしたセクシーな唇が濡れて開いて中の舌の赤がちらりと覗いた。

驚いた事に、サムはそれを見た瞬間足のあいだのものが条件反射のように僅かに反応するのを感じた。

―えっ!?彼は、男だよ!?

―僕って実は、ゲイだったの!?

激しく動揺して、自分自身に問い質す。

決してゲイを馬鹿にする訳ではない。だが、サムは今までの人生の中で同性に欲望を感じた事は一度たりともなかった。抗えない現象とは言え、そんな自分自身に驚愕する。必死で意識を他へと散らそうとした。

「ン……」

 すると、鼻にかかった息を吐いて、ディーンが無意識にか軽く唇を舐めた。ちろ、と真っ赤な舌が覗く。

サムの視線に気付かないのか、その仕草にすらボクサーパンツの中には完全に血が集まり、張った下腹は痛いくらいだ。

一瞬、このまま追いかぶさってその弾力のあるピンク色のくちびるを自分の唇でむちゃくちゃに押しつぶしたい心境に駆られる。

 彼は正真正銘の男性で。しかももしかしたら―血の繋がりのある、兄、かもしれないというのに。欲情を隠せない自分がサムは信じられなかった。

だけれども、凝視する視線を理性を総動員しても、外す事が出来ない。眼の前の柔らかそうに締まったしっとりとした滑らかな肌に舌を這わせ、思う存分舐め回したい。

白い胸筋の上で熱のせいでか色を濃くしているぷっくりとした柔らかそうな乳首を晒している様は、女性の膨らんだ豊満な胸より余程いやらしく見えた。こんなものを堂々と人目に晒して眠るなんて犯罪もいいところだと思う。

 今彼は―殆どアミュレットしか身に付けていない。もうちょっとでタオルがずれて股間のものまで見えてしまいそうな淫らな姿でサムを誘っている―ように見える。それを見てみたい、と思う自分がサムは信じられなかった。

 自分は衝動に流される事は決してない人間だと、今まで信じてきた。付き合っている、決まった彼女とだけセックスをして、唐突に欲情をして流されることは絶対にないのだと。

だが、今は理性と衝動が身体の中で危うい綱引きをしてどうにかぎりぎりで冷静を保っている。―つもり、だった。

 唐突にうっすらとディーンが目を開けた。

 とろんとした半分眠っているような曖昧な視線で、頬は上気し、泣く寸前のように目は潤んでいる。

「…サミィ……?」

不思議そうに、彼は微笑をして、腕を伸ばしてきた。―まるで、甘えるように。

その時、サムは自分の理性の糸が切れる音を聞いた気がした。

衝動のまま、伸ばされた手を荒々しく掴んでベッドに押し付ける。覆いかぶさって口付ける、正に直前に。

驚いたのか目を見開いたディーンとはっきりと視線が絡んだ。

その目の色に射抜かれて、ハッと我に返って身を引く。

「あ…ごめん!その…、その、…ままで、寝たら、風邪をひくよ」

 言い訳をしながら身体を離し、気まずい気持ちを殺してぎくしゃくと上掛けをかけてやる。ディーンは、サムの衝動に気付いてしまっただろうか。気付かない訳なんてない、あそこまで近付いておいて。

サムは欲望に流されそうになった自分に、激しい自己嫌悪を感じた。

「あぁ…悪いな、なんだか、すごく眠くて……」

ごにょごにょと半分眠っているような声で呟きながら、ディーンはThanx、と言ってサムが掛けてやった布団にもごもごと包まってふぅ、…と息を吐いた。

そっと部屋の電気を消し、自分の側だけベッドサイドのライトを絞って点けておく。ベッドに入ってしばらくすると、隣からディーンの寝息が聞こえて来る。そうなってようやく耐え切れず、サムはため息をつきながらこっそりとバスルームに消えた。

 











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