【 雷鳴が聞こえる前に 】 【11】 |
********** 何度目かの試飲の時、ついでにお疲れさま、と言ってグラスを軽く持ち上げると苦笑してディーンは同じようにしてくれた。 口に含んで転がしたワインの味は、ディナーのメニューに良く合う深みのある赤で。そう年代物でも高価でもないのに、酒に詳しくはないサムでも分かるほど、当たりといえる逸品だった。 本当にいいの?と何度も聞いたけれど、構わない、丁度気分転換がしたかったんだ、というおおらかなディーンの言葉に、躊躇いながらも結局、サムはその好意に甘えることにした。 昼過ぎに車を降りたところで合流し、ショッピングモールの中に入っている小洒落た花屋で、明日のパーティで彼女へ渡す花束の予約と配達を頼む。バラはイケてないという確固たる自説を持っている彼女の為に、それ以外の花を指定し、ジェシカに似合う華やかでお洒落な明るいイメージと、予算を伝えて注文する。 それでワインは何処で買うんだ?と聞かれて行き先に迷う。 本当は、車さえ故障していなければ、少し足を伸ばしてワイナリーに直接足を運び、近場では手に入らないような出来のいいワインを仕入れてくるつもりだった。その予定で遠出をする場所のワイナリーはいくつも調べてあるものの、近場ではこれといっていい場所をサムは知らない。 花束を買ったショッピングセンターで在り来たりのテーブルワインを買うわけにもいかないし、妙なものを持って行って彼女の父親に渋い対応をされることは避けたい。やはりここは値段には目を瞑って、デパートの端に陳列されている、ゼロが一ケタ多い目玉の飛び出るような高級ワインを買うしかないのかもしれない。 そう思ってぐるぐるとサムが行き先に悩んでいると、ディーンは、飛行機に乗るつもりだけは絶対にないが、陸続きで車で行ける場所なら何処まででも行ってやるからとっとと言えよ、とまるで当たり前のように言った。 どうして、君はそんなに良くしてくれるの?とサムは問いたい気持ちに駆られた。だが、それを聞く事はディーンの存在の、核心を突いてしまうように思えて言えなかった。 でも、一番いいワインを置いているワイナリーは、かなり距離があるんだ、というと、何キロだ?と聞かれて多分200km以上は、と答える。 ハン、と彼は不敵に笑う。普通なら二、三時間は掛かるだろうが、俺の運転とベイビーなら一時間とちょっとで余裕だな、と口の端を上げて言うと、勢いよく車に乗り込んだ。 愛車をベイビーと呼ぶのはちょっといただけないとサムは思ったが、こんなにも世話になっておいてそこを突っ込むわけにもいかず。苦笑すると同じように助手席に乗り込んだ。 二人がインパラで向かったのは、サンフランシスコから北東側にI―80号線と州道29号線をいった先にある、ナパというエリアだった。 ナパは南北に50キロ程の盆地に400以上もの大小のワイナリーが存在し、高級ワインの生産地として名が知られており、気候の違う細長いエリアで作られるワインは、その一帯だけでフランス一国に匹敵するほど多種多様なブドウから作られているという。 質の良いワインを求めて金を落としていく客の絶えないことから、ワイナリー以外にも高級スパや評判のレストランなどたくさんの穴場的なスポットがあるらしい。 アパートから数時間程度の距離で行け、彼女の父親の舌を唸らせるワインを適価で手に入れる為にはここしかないと、サムがしばらく前からどのワイナリーに足を運ぶかインターネットのクチコミで選んでいた場所がここだった。 道が空いていたとはいえ爆走したディーンとインパラのお陰で、本当に言ったとおり一時間半弱でここまで辿りついてしまった。ジェットコースターのように前を行く車を擦り抜けては抜かしていくディーンに、いつ後ろからサイレンを鳴らされるかとサムは内心では冷や冷やしていたが、自分の目的の為に運転してもらっているのだから文句など言い様もない。 そうして着いたここは、小規模から中規模のワイナリーが多く立ち並ぶなかでも、こぢんまりとしたヨーロッパのおもちゃの家のような小さな作りのワインセラーだった。 予め調べておいた目的のそのセラーは、愛好家の間では有名ないいワインを比較的リーズナブルな値段で卸す老舗の農場が経営しているという話だった。 彼女に聞いておいた父親の好みの味を店主らしい老婦人に伝えると、お勧めをいくつかグラスに注いでくれる。 それほど詳しくないサムは、自分の好みでしか味を選びようがない。 「…ディーン、どう思う?」 「んー、俺はこれだな」 これがいい、これに間違いないぜ、と、隣でガブガブ試飲していたディーンが差したのは、偶然なのかサムと同じ銘柄で。それを二本包んでもらい、会計時にパンフレットをもらった。 店を出ると、もう日が暮れかけていた。 「いいワインが買えてよかったな」 夕焼けを背に言うディーンは、さっきのマジで美味かった、と猫のように伸びをしている。 「あの、これ」 君に、と言って別で包んでもらった一本を差し出す。 首をかしげるディーンに、今日と、それから今までのお礼だよ、というと苦笑して気を使うなよ、と言うが、満更でもないのかThanx、と素直に受け取ってくれた。 今までの親切の御礼と足代と思えば、10本買っても足りないくらいだった。 ちょうど夕飯の時間だし、と言って見せた先程もらったパンフレットには、車で5分ほどの距離に、同じワイナリーが経営するレストランがあることを案内されている。そこではワインを買った客には食事を10%割引きしてくれるという。ジュリアズキッチンというそこは、先程の老婦人の娘夫妻が経営しているらしい。 ガラス張りの透明感溢れる店内は、平日の夜だというのに、既にリタイヤして悠々自適のような夫婦や、カップルなどでそこそこ埋まっていた。 流石に男同志の二人連れは見当たらないが、メニューに見入っているディーンは全くそんな事を気にする様子もなく、俺デザートはほろにがいチョコレートの小悪魔風味クレームブリュレ添えにする、と何故か意気揚々とデザートから決めている。彼にはゲイに見られるかもしれないという他人の視線などメニューの二の次らしかった。 しばらく悩んだあと、サムは新鮮なシーフードをレモンとコリアンダーで風味付けしたメインを、ディーンはラムチョッップとオイスターという組み合わせをそれぞれ頼んだ。これ以上ワインを飲んでしまうと帰りが大変そうなので、折角のワイナリーながらビールで乾杯する。 「あ、ここも、僕に払わせてよね。これは明日の車の修理代の、前払いだからさ」 冗談ぽく笑いながら言うと、ディーンは、年下のくせに気を遣うなよ、と口の端を曲げて笑い返す。 この分だと払わせてもらえそうにないなと思ったサムは、ころ合いを見てとっとと会計を済ませてしまおうと心の中で決めた。 「そういや、お前バイトとかしてるのか」 唐突にディーンが聞く。 「勿論しているよ。仕送りなんてないし。奨学金だけじゃ食って行けないからね」 と笑うと、そうか、と何故か目を伏せてしまう。裕福な学生も貧乏な学生もたくさんいるが、奨学金がもらえて学費が免除されているだけ自分は恵まれていると思う。 「今は、卒業試験とロースクールの面接の為に抑えていたけど、普段は家庭教師の生徒を数人持っていて、後は弁護士事務所で雑用兼助手をしているんだ。家庭教師の方がずっとお金にはなるけど、法律の実務の勉強も兼ねてるしコネも出来るしね。大学では、毎週のようにパーティがあるけど、それには殆ど参加しないな」 そんな余裕も時間もないし、少しでも貯金をしておきたかったから。そういうと、彼は一瞬、痛ましいとしか言えない視線でサムを見つめた。 可哀想にと思われたんだろうかと首を捻るが、サム的にはあの封建的な父親と狭いモーテルで二人で狩りをする暗鬱とした暮らしを続けるぐらいならば、バイトに明け暮れながら一人で大学に行く生活の方がどれだけ安全で正しく、幸せかわからなかった。 ビールのグラスを見つめながら言う。 「ロースクールを無事に卒業出来たら、今バイトしてる弁護士事務所にそのまま入れたらいいんだけど。…ジェシカと結婚するなら、職が安定していないと、ご両親も許してくれないだろうから」 ふと彼の右手の薬指にはまった指輪に目が行く。 「…ディーン、君は、彼女は?」 と聞くと、彼は苦笑する。どうかな、と目を伏せた。 「一晩だけで入れ替わる彼女なら、たくさんいたけどな。根無し草で不安定な仕事なんでね。…結婚なんて、今までに考えた事もなかったかな」 そう、と言う。なんだか、彼が哀しそうに見えて、違う話題を探す。 丁度良く前菜が運ばれてきた。 色鮮やかな海老とベビーリーフのサラダを食べていると、ふとディーンがこちらを見た。 「プロポーズには、どんな指輪を選んだんだ?」 「彼女はこだわりがあるからね。こっそり女の子の友人経由でリサーチして、彼女の好みに合わせてプラチナに小さなダイヤが嵌め込まれているものを。でも、女の子が好きそうな流行りのブランドものじゃないから、喜んでくれるかどうか…」 サムの精一杯の気持ちに、ジェシカは応えてくれるのだろうか、と思っていると、 「喜ぶに決まってるさ。気持ちがこもっていれば。ブランドなんか気にする女はこっちから願い下げだ」 冗談交じりに例えば、と首から下げている鈍い金のネックレスを手に取る。そういえば、彼はいつもこれを着けている。何か、意味があるのだろうかとふと思った。 「これは、弟が小さい頃に俺にくれたものなんだが…きっかけも、クリスマスに父さんが帰ってこなくて、むくれて俺に横流ししてくれたってだけのものだったし、だいぶくすんだ色になっちまったけど…それでも、これは、弟がはじめてくれたクリスマスプレゼントで。それ以来、ずっと身に着けてる。俺にとってはこのアミュレットは、ブルガリのネックレスより価値があるんだ」 目を伏せて言う彼を、サムはじっと見つめていた。 弟の事を、とても大切にしているディーン。 だが、今日顔見知りの事務課のシェイラに頼み込んで秘密で調べてもらった学生のデータには、ウィンチェスター姓の学生は自分一人しか今も昔も在学していないという確証がとれていた。 だが、そのことで、彼が嘘をついているとも思えない。 嘘をつく、必要もないように思えたし、例えサムを騙していたとしても、やっていることと言えば親切極まりない。 食事は交互に出し合っているからほぼ割り勘だし、車を回して毎日送り迎えをしてくれる彼の労力やガソリン代を考えたら今日の奢りとワイン分を差し引いても、遥かに彼の方が損をしている。 そう考えると、やはり、彼が探している弟のサムと言うのは―自分、の事なのだろうか。 だが、サムにはアミュレットをあげた覚えなどない。 自分は、いつかどこかで会った事のある、彼の存在を忘れてしまっているのだろうか。 だが、どうしても思い出せない。あの写真の時、3歳と言えばおぼろげにでも記憶があってもおかしくはないのに。 ディーンを見ていると、何処かで会ったことがあるような気がするかと言えば、正直そんな気がしないでもない。だけれども彼のような印象的なタイプをここまですっかり忘れる筈もないというような気もする。だが、彼に感じるこの曖昧で不可思議な感覚を、ことばで現すことは酷く難しかった。 ため息をつき、グラスを飲み干して置くと、ふとアミュレットを手で弄んでいた彼と視線が絡む。先程のワインが利いてきたのか、少し目元が紅い。なんだかやたら色っぽく見えて、ごくりと唾を飲み込んだ。 考えるより前に、口が勝手に言葉を紡いでいた。 「ディーン、君は…僕の……」 ―僕の?僕の、何なんだろう。 君は、誰? わからない。自分が問いたい事も、彼の正体も。 見つめ返すディーンの目に浮かぶのは不安な表情をしたサム自身だった。ディーンは、さっきまでの酔いがすっかり醒めたかのように眉を顰め、唇を引き結んで何かを言い掛けたサムをただ静かに、じっと見つめている。 その深碧の瞳を見ているうち、サムの脳裏に天啓が降りるような不思議な感覚が過った。身体を何か別の生き物がすり抜けて行ったかのような、全身の産毛が逆立つような不快と快感の間の感じに、目を見開く。 ―知ってる。 僕は、君を。一体何歳の時に会ったのか、何処でどんな風になんていう記憶なんて全然なくてすっきりせず酷く気持ちが悪い、でも。 何故か、自分はディーンを知っていると、サムは写真のせいでもなく、そして記憶ではなく、今、感覚で。確信し始めていた。 「―ちょっと、失礼…」 口元を押さえてレストルームへ向かう。少し一人になって考えたいと思った。 ついでに用を足し、顔を洗って頭を冷やす。そんな事くらいで思い出せるわけもない。鏡の中の自分を見る。もし自分達が本当に兄弟なのだとしたら、ディーンは一体何を求めて自分に会いに来たのだろう。 金?自分には融通できる金なんてない。弁護士になって成功すればそれなりの収入を得られるだろうが、それはまだ数年以上も先の話だ。父親にも財産なんてある筈がないし、まかり間違ってあるとしたら借金だけだろう。 何か、困っているのだろうか。―それにしては、サムを助けてくれてばかりだ。恩を売ろうというのか?違う!彼はそんな回りくどいことをするタイプではない。じゃあ何なんだろう。 ―もしかして、ただ、顔を見に?元気にやっているか、確かめに来てくれたのだろうか。 そう思うと納得がいく。だけれども、それならば名乗りを上げてくれればいいのに。何故、兄だと言ってくれないのだろうか。 そうしてふと考えた。唐突に来て、突然実は兄なのだと打ち明けられたら、自分は受け入れられるだろうか。否、信じられず、隠していた父を罵り、ボビーに愚痴を言ってきっと彼を頭から拒絶したに違いない。 今彼を知りたい気持ちになっているのは、兄かもしれないからということ以上に、ディーンの人柄を知ったからではないのだろうかと思った。弟を大切に思い、父を敬い、必死に仕事をして、そして車を愛している。綺麗な器の中に、更に純粋な魂をそっと隠しているような、そんな彼を。 彼に、直接聞いてみようか。聞いて、何かが決まってしまう事も、聞かないまま中途半端に助けられ続けることの、どちらもがずるい事のように思えた。 悩みながら、テーブルへ戻る。 「よう、トイレで寝てたのか?随分遅かったな」 ワイングラスを目元まで持ち上げながらウインクして言うディーンは。 「え…?コレ、まさか全部君が飲んだの!?」 驚愕して聞く。サムが席を外していた十数分程の間に、ディーンはフルボトルの赤を追加注文して、4分の3程を既に飲み干してしまっていた。 ―有り得ない。ワインのアルコール度をビールか何かと勘違いしているのではないのだろうか。 「あぁ、ここのワインホントに美味いな…ま、今日は俺のオゴリだから心配すんなよ。お前の、婚約、前祝いだ!」 乾杯!冗談交じりにそう言って、グラスに残ったワインを飲み干す。 空になったグラスにまた手酌で継ぎ足そうとするのをサムは慌てて止めた。 「もう今日は止めなよ。こんなに一気に飲んで、アルコール中毒にでもなりたいの?…あぁ、水を持ってきてもらえますか」 通りかかったウェイターに水を頼む。今更がぶ飲みさせたって酒が抜けるとも思えなかったが、せめても悪酔いを避けるためにと考える。 「…ンだよ、このくらいで、酔うわけねえだろ…」 フン、と言いながら肘を付くディーンは、目元を赤くした完全に酔っぱらいの風体で、座っているだけでも危うく今にも突っ伏して眠りそうだった。 「ホラ、このまま寝たら明日二日酔いになるよ、水を飲んで、ディーン、…ディーン?」 名前を呼ぶとぴくりと反応する。彼の手をとって水のグラスを持たせると従順に飲む。冷たい水を二杯ほど飲ませると、さっきよりは少し落ち着いたようだった。 「トイレ…」 安心しているとよろりと立ち上がるから、慌てて支える。 「ついていくよ」 「、るさいな、お前は。トイレぐらい一人で行ける!」 駄々っ子のように手を振り払われてふらふら行くのを苦笑しながら見守る。 その間に会計を済ませておくと、トイレの前でサムはディーンを拾い、ほうっておくと違う方向へ行きそうな彼をインパラまで誘導した。 危ないから、帰りは僕が運転する。 車にこだわりがありそうなディーンにそう言うのは正直いって気が引けたが、サムは試飲とグラスでビールを一杯しか飲まず、後は水を飲んでいたからアルコールは殆ど抜けている。卒業間際に飲酒運転の末事故なんて絶対に御免だ。 意外にも、手を出すと案外すんなりとディーンはキーを預けた。 自分でもこのままで運転はヤバイということは理解していたらしい。ゆっくりとアクセルを踏み込むと、初めて運転する車だが、古い割にディーンの手入れがいいのかクセもなく思った以上に運転し易い車だった。 「寝ててもいいよ。着いたら起こすから」 そういうと、あぁ、と気だるそうな声が助手席から返る。彼が泊っているモーテルの場所は、話すうちに聞いていたから寝てしまっても問題なく着ける。 ディーンが眠っていると思い込んでいたサムは、シートに深くもたれた彼が、愛車を運転するサムをずっと息を殺して見つめていたことに、気付くことは出来なかった。 帰りは、道が混んでいた訳ではないのに、途中で一度ドライブインで水を買ってトイレ休憩を入れた事を除いても、結局二時間以上もかかってしまった。決してサムの運転がのろい訳ではなく、ディーンのドライブが異常なのだとサムは内心で思った。 「さ、着いたよ…ディーン?大丈夫?」 モーテルの駐車場に車を入れ、あれ、と思うと、眠り込んでいたと思っていたディーンは前を向いて起きていた。まだ少し頬は赤いが、さっき程ではない。酒に強いと自分で言っていたのは本当らしかった。 「あぁ。…運転させちまって、悪かったな」 目を合わせず、だるそうに車を降りる。エンジンを切ってサムは後を追った。 「じゃあ、僕はフロントでタクシーを呼んでもらって帰るから、ゆっくり休んで…」 「―泊っていけよ」 え?と聞き返す。 部屋のドアの前に立ち、緩慢な仕草でポケットからキーを取り出しながら、ディーンは更に言った。 「ベッドは一つ空いてるし、どうせ明日迎えに行くんだから同じことだろ。それに、明日は整備工場に注文してた発電機が届く。一緒に取りに行って、それからお前の車を直しに行けば、ちょうどいい」 この車に乗って帰ってもいいけど、もう12時過ぎてるぜ?といいながら、ディーンはほら、とドアを開ける。 今から車を借りて帰ってまた明日来てという手間より、確かに空いているベッドに泊まらせてもらった方が合理的かもしれない。長時間のドライブで正直疲労してもいた。 少し考えた末、サムは頷いた。 「…じゃあ、そうさせてもらおうかな」 酔っぱらいのディーンの様子も気になるし、ちょうどいいか。 そう思って部屋に入る。一般的なツインベッドルームの部屋。 ベッドそっちな、と左側を指差されてThanxと言って上着を脱ぐ。ポケットに入れっぱなしだった携帯でジェシカに外泊の連絡をしようとすると、先にメールが届いていて、彼女も今日はパーティの準備で実家に泊まるという連絡だった。了解の旨を送信する。 彼女とは明日の夕方、車を直してもらった後、アパートで合流して一緒にパーティに行く予定だから問題はない。 冷蔵庫から水を出していたディーンが、何か飲むか?と聞くからじゃあコーラをと言い、冷えた缶を手渡される。 「お前先にシャワー使えよ。俺はもう少し酒抜けてからにするから」 これ着替え、とTシャツを手渡される。 ぐったりとベッドに横になるディーンの背中に、じゃあお先に、とバスルームへ向かった。 「ディーン?空いたよ」 シャワーを浴びて戻って来ると、先程の姿勢のまま眠っていたのか、ディーンがあぁ、と言ってこちら側に寝返りを打つ。 「…あ、はッ!お前、それちっちゃくないか?」 見た瞬間、堪え切れないというようにディーンがぷっと噴き出す。確かに、ディーンのTシャツは長身で筋肉質なサムの身体にはぴったり過ぎた。噴き出すほどおかしいとは思わなかったが、ディーンはぷくくくっと耐えきれない様に腹を抱えて笑っている。 「そんなにおかしいかな?でも君以外見る人いないし」 いいじゃないか、とむくれると、 「くっ、わりぃな、それ以上デカいのなくて…ははっ、火事でも起きて避難しなけりゃ大丈夫だろ…しかし、」 転がりながら、彼はまだ笑っている。酔っているせいか、ものすごくディーンは上機嫌だった。 「笑ってないで風呂に入ってこいよ」 【next】 |