【 Perfect Ending 】



















 最終シーズンの撮影が終わり、最後のDVDの発売と
同時に行われたコンベンション。

 ジャレッドとジェンセンの二人が揃う
Last conventionと銘打った為か、チケットは瞬く間に完売した。

 前日までのゲストたちも最後であることを意識し、
ここぞとばかりに今までに出ていないネタを披露し、
そして最終日の日曜。

 既にカナダを離れて別々の仕事を始めているふたりは
久し振りに揃ってバンクーバーに降り立った。

 満を持して現れたジャレッドとジェンセンの二人に
イベント会場は熱気に溢れ、
パネルは大変な盛り上がりを見せた。

 それぞれのソロのパネルが終わり、
二人が息の合った掛け合いを見せて
大爆笑を誘った揃いのパネルの時間も終了に近付き、
スタッフからのアナウンスが入る。

 会場から多くの名残を惜しむ声が上がると、
ふと二人は顔を見合わせた。

 ジャレッドの顔を一瞬見つめるとジェンセンは頷き、
スタッフチェアから立ち上がると咳払いをして、
あー、えっと…と何か言い辛そうに俯いて口を開いた。

 何の話かと、会場中がジェンセンの一挙に集中する。


 だが俯いたままマイクを握り締めたジェンセンは、
視線を下げたまま虚空をにらみ、
切り口を考えているのか、言葉を選ぶように
言い出すタイミングを掴めずに次第に汗を掻き始めた。

 しんと静まり返った会場からは、
時折耳障りなシャッターを切る音が聞こえるだけで、
皆がジェンセンの言おうとする言葉を待ち耳を傾けている。

 どうしようもなくなったのか、顔を上げると、
ジェンセンは縋るように
斜め後ろの椅子に座るジャレッドへと視線をやった。

 それを受けて頷き、安心させるように
ぽんとジェンセンの肩に触れると、
ジャレッドは身軽に立ち上がり会場に視線を巡らせて口を開いた。


「あー、えっと、スーパーナチュラル関係の撮影は
もう全部終わったし、最終シーズンのDVDの発売も昨日無事されて、
僕達のCWとの長年に渡る契約は、
このコンベンションをもっていったん終了するんだ」

 いろいろあったけど、友好的な形を持ってね、
というジャレッドの言葉が、途中で予算を削られたり、
制作に様々な口出しをされたことに対する皮肉だと
いうのがわかったのか会場からは笑いが洩れる。

「それで、撮影期間中は、いくつかのしてはならないことが
僕らのエージェントとCWの間の契約上あって、
ようやくそれも解禁ってわけで」

 つらつらと話すジャレッドの横に立ち、
ジェンセンは硬くマイクを握り締めたまま、
ジャレッドの足元を見つめている。

「でさ、まあようやく…ってわけじゃないんだけど」

 そう言うと、ジャレッドはポケットに手を突っ込むと
ちらりとジェンセンの顔を見た。

 気付いたジェンセンが、ジャレッドと視線を合わせる。

 フラッシュが焚かれる。

 軽く首を傾げて伺うような視線を向けるジャレッドに、
唇を噛んだジェンセンは、少し切なそうに目を細めると、
ほんの僅か、分かるかわからないかというくらいに頷いた。

 会場を埋め尽くす聴衆には、一体二人がしているアイコンタクトが、
何に関する密談なのかがまるでわからない。

 それに笑みを返すと、ジャレッドは前に向き直り、口を開いた。



「―僕達、婚約したんだ」





 その一瞬、会場内からは、シャッターを切る音も、
衣擦れの音さえも消えて、水を打ったようにしんと静まり返った。

 いったい、いま、なにを言われたのかがわからない、というかのように。

 だが次の瞬間、阿鼻叫喚としか言えないような激しい叫びと
視界がまともに利かなくなるほどの
フラッシュの嵐、拍手の洪水が二人を襲った。

「うわ、!ちょ、ちょっと全然見えないよ、
みんなちょっと落ち着いて、―ジェン、大丈夫?」

 真横であまりのフラッシュのまぶしさに顔を伏せた
ジェンセンを心配して肩を抱いた
ジャレッドに、更に激しく会場からは更に
絶え間ないシャッター音の嵐が飛び交う。

 おめでとう!!という言葉の怒涛のような波に、
ジャレッドはありがとう、ありがとう!と満面の笑みで返し、
ジェンセンは唇を噛み締めたまま
となりのジャレッドの足元を睨むように見つめている。

 祝いの言葉に混じって、いつから!?という叫びが
会場から投げ掛けられると、
ジャレッドは苦笑して、「そのへんはご想像にお任せするよ」
といい、会場からは冷やかすように口笛が飛ぶ。

 まあまあ、というようにそれを手で宥め、
となりでこれ以上なく固まっているジェンセンの背中に
手を当て、愛しそうに見つめると、ジャレッドは口を開いた。

「嘘をつくつもりとかはまるでなかったんだけど、
どうしても契約が終わらないと公表できなくってさ。
これで僕たちも、ようやく肩の荷がおりたっていうか、」

 ね、とジェンセンの顔を覗き込むと、
ようやくおそるおそる顔を上げたジェンセンは、
不安そうなままジャレッドを見つめると、ぎこちない仕草で頷いた。


「ま、そういうわけで、僕たちしあわせだから!」


 かちんこちんのジェンセンを引き寄せて肩を抱くと、
会場からは更に叫びのような狂喜の悲鳴が上がる。

 ジャレッドはこの上なく幸せそうな満面の笑みで手を上げて、
ステージを後にするべく背を向ける。

 その刹那、ジャレッドの背中を、シャツを握り締めるように
強く掴んでいたジェンセンの手が
聴衆の目に映り、また激しくフラッシュが焚かれる。

 嵐のようなおめでとうの声に見送られて、二人はステージを後にした。




 その夜の動画共有サイトのTOPダウンロードは言うに及ばず、
婚約をしたと言った時のジャレッドのシーンと、
縋るように彼を見つめるジェンセンのシーンは
編集されて繰り返し流れ。

 翌日の芸能ニュースは、
「人気ドラマの俳優同士が婚約!?」という見出しが各所に躍り、
その宣伝効果は絶大で、最終DVDの販売は爆発的な数字を記録した。

 スポンサーがそれを放っておく筈もなく、
苦い顔のCWのお偉方もOKを出さざるを得ず。

 スーパーナチュラルに続編的な映画製作の話が持ち上がり、
困惑しつつも結婚を間近に控えた二人がそれにサインをするのは、
もう少し先の話になる。






Happy End★


090906