【 パダレッキ★Jr. 】














お前の子供が見てみたい。


そう言うと、ジェンが産んでくれるの?と冗談交じりに返すから、
それは俺には出来ないだろ、と苦笑して。

だから、

別れて欲しい。

そう言うと、ジャレッドはきょとんとした顔でしばらく俺を見ていた。


…僕の子供が見たいからって僕は捨てられるわけ?

あぁ、そうだと答える。

微妙な空気はやがて張り詰めたような沈黙に変わり。

そのまま俺を見つめ続けた後、…わかった、と言ってジャレッドは
出て行った。



馬鹿馬鹿しい話だと思う。

でも、本当に俺はあいつの子供が欲しかった。

俺に出来ることなのなら、野球チームが作れるくらい産んでやる。

あいつの子供なら、どれだけいたって構わない。

どんなに可愛いことだろう。

きっと利発で、金髪に青みがかった焦げ茶の瞳。
そしてありえないくらいにバカでかく育つ筈だ。

そんな子供をあいつに抱かせる幸福を与える為ならば

いま俺が切り裂かれるように痛む胸を抱いて
あいつの人生から去ることくらい、きっと大した事じゃない。


あいつの家から引っ越してアパートを借りる。
淡々と仕事をこなし続ける。

ある日ドアベルが鳴った。


ドアを開けると、そこには案の定ジャレッドが立っていた。

見慣れた人懐こい笑顔。
1ヶ月ぶりのその様子は、やつれても
荒んでもいなくて、俺はにわかにほっとする。

「ジャ……」
「ジェン、痩せたね。…僕が連絡をとらなかったから?」

ごめんね、いろいろ忙しくてといいながら、よいしょ、と
彼は腕に抱えていた包みを抱きなおした。

ばぅー、という声が聞こえて思わず瞬きをする。

「おい、それ…」

「うん、あ、そろそろミルクの時間なんだ」

入ってもいい?そう言われて呆然としたまま
部屋の中へ通す。

よいしょとソファへ腰を下ろしたジャレッドは、
膝の上にその包みを乗せてそっと開いた。

零れる銀に近いほどの淡い金髪。
マシュマロのような肌。

そうか。もう、居たのだ、ジャレッドには。

俺が決意をするのとちょうど時期を同じくして、
別れのときは来るべくしてきたのだと言うことを知り。

ほっとしたような嫉妬で胸が痛むような複雑な心境になる。

そんな俺の物思いも知らず、ジャレッドは
赤ん坊のやわらかそうな頬にそっと触れた。

それはもう既に、父親のしぐさだった。
また胸が激しく痛む。

彼は、少し照れたような顔で俺に目を向けてこう言った。


「紹介するね。
 この子はジェンセン・パダレッキ。―君と僕の、子供だよ」



―お前と、俺の………こども?



…なんで?



にっこりと笑って言うジャレッドの言葉を
ぽかんと口を開けてただあっけにとられて聞く。

ホラ、彼が君のもうひとりのパパだよ、と言ってジャレッドが
促すと。

ジェンセンJr.は俺に目を向けた。

恐ろしく綺麗な赤ん坊だった。
考えたくはないが、俺の子供の頃の写真に
瓜二つだ。

何がおきたのかわからない。


赤ん坊は立ち尽くす俺を確かめるように
まじまじと見つめてから。

俺にそっくりな透き通るような碧色の瞳に
呆然とした俺を映したまま。

天使のような笑顔でだぁ、と笑った。



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090414