※ご注意です※
以下は主にじぇん×でぃん、
ぷらすさむ×でぃんの妄想小説です。
意味のわからない方、興味のない方は、
ご覧にならないようにお願い申し上げます。


※じぇんでぃん2冊目のLove Knotの
64Pの終わりから分岐した
別のエンディングです。

悲しい感じの終わり方なので、
そういうの大丈夫な方だけ
読んでくださいませ。



【 Love Knot 】
Another ending






















 幸せな生活は十年足らずで幕を閉じた。

 趣味と実益を兼ね、スポーツドクターを目指していたジェンセンは、彼がチームに所属すれば、遠征で離れるしかない事を酷く寂しがっているディーンの為に、誘われていた大学の研究室に残る道を選んだ。

「別に、サムにとられると思ったからそうしたわけじゃないよ?」

と言いながらも、弟の選択に、戸惑いながらも本当に嬉しそうなディーンの前では、ジェンセンのことばは照れ隠しにしかならなかった。

 リハビリテーション工学の研究を重ねていたジェンセンは、大学病院の入院患者の協力を得て、病棟に赴いては診察を兼ねて日々治療にあたっていた。

 そのうちの一人、試合中の事故で片足に麻痺の残っていた患者が体調を崩した。

 風邪の初期症状だと思われていたそれが抗生物質の効かないある多剤耐性菌への感染だとわかり、見る間に敗血症を発症して彼は集中治療室に入った。

 それか、見舞いにきた外国帰りの友人からの感染だとわかった時には、彼のリハビリにあたって接触のあったジェンセンも、病院から帰れなくなった。

 ディーンとサムが院内封鎖を知ったのは、ジェンセンからの連絡が途絶えてからだった。

 帰れなくなってからもジェンセンは毎日ディーンにメールで泊まり込みで帰れない旨を送っていた。

それが、ディーンを心配させないようにと慮ってのことだったのか、それとも知識のある彼は既に覚悟の上だったのか、今となっては聞くことも出来ない。

 二人がジェンセンと連絡のつかない事に不安を抱き、病院に問い合わせ、そして駆けつけた時には、既に死亡した患者は3人目になり、ジェンセンの意識は無かった。

 そして感染を防ぐ必要性から、生身に触れることすらできず、最後にたったひとこと話すことすら出来ないまま、ディーンはジェンセンを見送るしかなかった。

 義理の母と父がようやく間に合った葬儀の日、予想以上に多数の友人に見送られて彼は天国へと先に旅立った。

 そして、自分とそっくりな亡骸の納められた柩を、感情がなくなったかのようにただ呆然と静かに見つめるディーンを、サムは裂かれたように痛む胸の痛みと共に隣で見守っていた。

 促されれば立ち上がり、話しかければ頷く。けれど、もうそこにいるのは今までのディーンではなかった。

 ディーンが事故に遭って意識不明だった時のジェンセンとどこか似ている。働くことも、まともにひとりで日常生活を送ることもままならない。食べない、眠らない。

ふたりは、躰はふたつで生まれてきたけれど、まるで魂はひとつだけしか与えられなかったみたいに、片割れなしでは生きることすら困難であるようだった。

 仕事どころではなく、とりあえず勤務先の店に連絡を取ると、彼に辞められるのは困るということで休職という形をとることになった。ディーンにその了承をとろうとした時も彼はどこか人ごとのように、小さく頷いただけだった。

 本当に、ディーンにはジェンセンが、必要だったんだな思う。こころをジェンセンに持っていかれてしまったかのように、生きる気力を失ってしまったディーンが、可哀そうで哀しかった。

 ごめんね、とサムは謝った。

 ジェンセンを、助けてあげられなくてごめんね。

 僕が代われたら良かったのに。そうしたら、ディーンはこんなに悲しまなくて済んだのに。

 そう呟くと、ディーンはゆっくりとサムに視線を向けた。
 何を言っているんだと言うように不思議そうに見つめられる。

「お前は、お前だろ…?」

 そう言われて、伸ばした手で頭を撫でてくれる。サムの気持ちをどう感じたのか、ディーンはその晩サムを抱き締めてくれた。

 二度と言えなかったけれど、もし悪魔がほんとうにいてサムの命とジェンセンの命を交換してくれるなら、サムは躊躇わなかった。サムには、涙が枯れるまで泣き、こんな風に抜け殻になるまで哀しんでくれる人はいない。
 どうしてジェンセンだったんだろう。ごめんね、ディーン。僕だったらよかったのに。

 抱き締めてくれる彼の熱に癒されたが、その気持ちは変わる事はなかった。



     *



「…ディーンは?」

 ちいさな声で向けられた問いに、サムは、いま仕事に行ってるよ、と答えた。

 それで納得したのか、差し出されたカップを受け取って静かにディーンはそれを飲み始めた。




 ジェンセンが天に召された後、ディーンは時折ジェンセンになった。

 ディーンのままでいるときには、ぼうっとはしているが、ジェンセンがもういないことも、世の中の事もちゃんと理解しているようなのに、ふっと唐突に、ディーンの中でスイッチが入れ換わる様に彼は弟になる。

 初めは驚いて、ディーンは君だよ、ジェンセンは、悲しいけれどもういないんだ、と必死に訴えてみたけれど、そうなっているときには、ディーンは何を言われているのかわからないと言うような顔で、不思議そうに首を傾げた。

 思えば、それはジェンセンを失った彼が、どうにか生きていく為に、どうしても必要で自分についた嘘だったのかもしれない。

 二重人格、という言葉も頭を過ったが、考えないようにした。

 サム以外の人間の前でジェンセンが現れることは最後までなかったので、相談止まりで、医者に見せることも結局できなかった。

 サムはディーンを全力で引き留めようとしたが、止められず、ディーンはいってしまった。 

 壊れた人形のようにぼんやりと日々を過ごすディーンが、徐々に弱っていっている事は分かっていた。できることは全部したし、どうか食べてくれるように、泣いて懇願さえしたけれど、ジェンセンを失ったディーンにはその声は届いていないようだった。 

“ひとりで、先にいったりしないでね”

 ディーンが耐えられないなら、僕も一緒にいくから、だから一人でいかないで、とサムは真剣に何度も頼んだ。

 そのたびに、目を伏せて、苦笑するような素振りを見せるディーンは、それでも、何バカなこといってんだよ、と今までのように笑ってはくれなかった。
 
 約束をしたのに。

 一年ほど経った後、眠ったままディーンは呼吸を止めていた。

 帰宅したサムが、救急車を呼んで、蘇生を行っても、もう体温の逃げた彼の体に熱が戻る事はなかった。

 心不全、という病名がつけられたが、心臓の弱かったわけでも老人でもない彼の、それは心が体の生を止めたとしか思えない終わりだった。

 そっと墓石に触れる。ひんやりと冷たい。

 当たり前だが、そこには彼らのぬくもりも匂いも、笑顔も見当たらない。
 遺言書は、無意味なものになってしまった。

 もし、全財産を差し出したなら二人を生き返らせてくれると誰かが言ったら、サムは何も迷うことなく全てを捧げるだろう。どんなに多額の金も、土地も、株も、今のサムにとって、何の価値もないものになってしまった。 

 二人は、サムを置いていってしまった。

 これからは、ひとりでとる食事、一人きりの家、一人きりのベッドが、冷たくサムを迎える。

 寂しいな、と痛切にサムは思った。

 けれど、まだサムにはやるべき仕事があり、支えるべき社員がある。死んでしまいたいくらい悲しかったけれど、そして自ら命を絶てば彼らの待つ天国へいけなくなることも知っていた。

 それでも、きっと天上の世界でまたイチャついているであろう二人に、どうかお願いだから僕のこと忘れないでいて、と言いたくなってしまう。

“ちゃんとお前の場所、とっといてやるから、後からゆっくり来いよ ”

慌て者で、先に逝ってしまったディーンが、追いかけて来て甘えるジェンセンの隣で笑いながらそう言ってくれている気がした。

 気付いて苦笑いをする。彼より先に逝ったのはジェンセンのほうなのに、何故そんな風に思ったのだろう。だがどうしてか、サムの中にはそんなイメージが時折湧いていた。

時折サムはふと思う事がある。

ディーンは、サムにゆびきりをして約束した。

一人でいかないで、と泣いて頼むサムに、無言で小指を差し出したのだ。

けれど、ディーンはゆびきりのなんたるかを知らなかった筈だった。
ジェンセンが、サムの知らないところで教えたのかもしれない。

ディーンは、本当にディーンだったのだろうか?もしかして、本当にジェンセンがディーンのところへ、帰ってきては彼の身体を借りていたのではないのだろうか。

最後に見送ったのは、いったい誰だったのだろう。

ディーンなのか、それとも、ディーンの中にいたジェンセンなのか。

最後に残った躰がどちらであったのははっきりわかる。けれど、こころは、どちらのものだったのだろう。

 バカなことを考えているとサムは自嘲した。

 寂しくてさみしくて、おかしくなってしまったのかもしれないと思った。

重要なのは、二人が何よりも互いを想い合い、そしてまたサムを愛してくれたこと。

生まれた後に、自分の手で見つけ出したサムの大切な家族。

二人がサムに与えてくれた愛情が、サムに残された生きる為の唯一の糧だった。





サムはいつか自分が眠る場所を振り返る。

親戚には猛反対されたが強行し、父親は、意外な事に「お前の好きにすればいい」と黙認してくれた。

ディーン・アクレス、ジェンセン・アクレス。

ふたりの兄弟の亡骸は、特注したウィンチェスター家の墓場の敷地内に、並んで眠っている。隣合う棺は、互いに手を伸ばせば、触れられるほどの距離に納めてもらった。

そして、サムの為の墓は、彼らが目覚めたら、すぐにサムを見つけられるところ。

ディーンとジェンセンの兄弟の、向かいに作ってもらってある。

いつか彼らが目覚めることがあったら、―それが天国でも、現世でも、来世だとしても―どうか一番にサムを見つけてくれますようにという、願いを込めて。

またくるよ、と呟くともう一度ふたりの墓石を愛しく撫で、そしてサムは墓を後にした。

ふたりがくっつきながら眠る、安らかで幸福そうな、寝顔がまぶたの裏に浮かぶような気がした。












     *



 気付けば、サムの視界は真っ白な世界に包まれていた。

 ついさっきまで、嵐の中を身を縮めながら一人で歩いていた筈なのに。ふわりと周囲を取り巻くのが霧なのだと気付いた時、サムはまた当て所もなく歩きだしていた。

 ずっと身体が重かったのに、不思議にいまは羽根が生えたようにふわふわと軽い。

 道なき道を歩き、ふと立ち止まる。

 右に行けば、おぼろげにしか覚えていない母に会える。

 そして、左に曲がれば、あの不機嫌な父がいることがどうしてかわかった。

 父はともかくとして、母には強烈に会ってみたい気持ちがこみ上げた。だが、結局どちらにも曲がらずに、サムは引かれるようにしてただまっすぐに歩き続けた。


 妙な確信があった。

 しばらくいくと、唐突にザッと視界が晴れた。

 目の前には古ぼけた二階建てのアパートメントがぽつんと建っている。その光景に、サムはたまらずに駈け出した。

 ドアの前に立ち、ポケットの中を探る。鍵に触れ、取り出そうとした時、カチャリとノブが回った。

「「あ」」

 ひょこりと顔を出したのは、ジェンセンだった。

 目があった瞬間に、ジェンセンはむうっと頬を膨らませた。

「遅いよ、サム」

「ご、ごめん」

 よくわからないけど怒られて、サムは謝った。

「はやく早く!」と手を引っ張られて、慌てて着いて行く。

 キッチンのほうから何かいい匂いがしている。

 そこにある筈の光景を想像しながら急ぐと、やはりそこには。

「遅せえよ、サミー」

 苦笑してサムを見る、ディーンの姿があった。

 言葉を失って、サムはその懐かしい綺麗な白い顔を見つめた。

「ディーン、ずーっとサムの事待ってたんだから」

 とジェンセンに言われて、「うん、ごめん、遅くなって…」とつぶやきながらディーンに近付く。ジェンセンの前だと言うのに感極まって思わず身を屈めて抱きついてしまった。

 腕の中の温かな彼の感触に息を吐く。くん、と埋めた鼻先で匂いを嗅ぐと、足の力が抜けそうなくらいに癒された。

 一瞬面食らった様子のディーンは、すぐにサムの背に手を回し、おかえり、と呟いてくれた。

 背中をぽんぽんと撫でる手はディーンのものだ。じゃあこの頭を撫でてくれる手は?

 涙に濡れた手で顔を上げると、どこか神妙な顔つきで、頭を撫でてくれているのは、ジェンセンだった。

「おまえほんと泣き虫だなあ」と苦笑したディーンに優しい顔で見上げられる。なぜ泣いているのか自分でもわからなかった。

「よっぽど腹減ってたんだな」

 早くメシにしようぜ、というディーンは何かを作っていたようだった。
 お腹がすいていたわけじゃないのだが、せっかくなので気を取り直してサムは頬を拭った。

「何作ってたの?」

「ジェンの好きな野菜のキッシュと、あと…」

 口ごもったディーンに、なんだろうとキッチンを覗くと、そこには、揚げたてのフライが山盛りになっている。

「お前が帰ってくるってわかったから、ジェンと作ってたんだ」

 なんだか言い辛そうにディーンはいう。ジェンセンはどこか苦笑気味に笑っているから、おそらくほとんどディーンが作ったのだろう。
 感動して、ありがと、と二人に言うと、サムはディーンの頬にキスをして、それからおそるおそるジェンセンの髪にそっと口付けた。ディーンは目を丸くしていたが、ジェンセンは照れたように笑ってくれた。

 ダイニングテーブルに皿を運ぶのを手伝うと、リビングの壁際にある飴色のアップライトが目に入った。

「食べ終わったら、僕がコーヒー入れるから、久し振りに弾いてくれない?」と聞くと、ジェンセンはいいよ、と頷いた。

「コーヒー一杯で弾かせる気か?」

 山盛りの皿を器用に運びながらいうディーンに、

「もちろんチップは弾むよ!ディーンにもね」というと、ジェンセンと顔を見合わせて楽しそうに笑った。

 そうしてディーンの料理を三人で堪能したあと、サムの淹れたコーヒーを飲んだ二人は、腹ごなしにといって、サムの希望を叶えるためだけに歌い、弾いてくれた。



 ずっと望んでいたものが全てここには揃っている。

 古いアパートで、居候の身で、けれどここには、ディーンと、そしてジェンセンがいる。

 世界で限定のスポーツカーを手に入れた時より、会社を継いだ時より、ずっとずっとサムはしあわせだった。


 美しい曲に身を浸していると、抱き締めた時よりも不思議に本当にふたりがそばにいるのだという実感がわいてくる。

 蕩けそうな睡魔に襲われて、サムはとろりとまぶたを閉じそうになる。

 だが、眠ってしまっても、幾度も見た夢のように、もう二人が消えてなくなることはないと知っていた。

 もし、次に生まれてくることがあれば、ジェンセンとディーンはひとりの人間であるといいなと思った。

 そうしてサムはその弟になるのだ。

 想像してみると、それは最高のポジションだった。

 そう言ったら二人は怒るかな、それとも笑ってくれるだろうか。

 この曲が終わったら、言ってみようかと幸せな気持ちで考え。ディーンの歌声とジェンセンのピアノに導かれて、サムは幸福な気持ちで目を閉じた。












【END】














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