【 addicted to you 】
jaje ss













『ヘイ、撮影はどう、順調?』

「…お前がいなくて超スムーズに進んでる」

『何だよその疲れきった声。昨日のメールではあんなに元気だったくせに』

 くすくすと笑う上機嫌な様子に、さらにむっとしてジェンセンは携帯を持ち直し、開けたばかりのビールを呷った。

 昨日は昨日、今日は今日だ。昨日はスタッフから焼き立てのカップケーキの差し入れがあり、大喜びで齧っていたご機嫌なところへメールがきた。そして昨日は会えなくなってからまだ4日。今日は5日目だ。その一日の差は、大きなものがある。

 週の半ば。まだエピソード3の撮影は半分以上残っていて、それはディーンが過去の世界に突っ込まれるという、シュールでそして家族の謎を探る鍵の話でもある。

 半分ディーンから抜け出させていないような気分で、まるでサムに執着するのと似たような気持ちに埋まっている。
 そんな状態の俺は、たかが一週間少々のバカンスに出かけたジャレッドが既に恋しくてたまらなくなってしまっていた。

「今日、長引いてさっき帰ってきたとこなんだ。あぁ、セイディもハーレイも元気いっぱいだから安心しろ」

 悪さもしないし、毎日一緒に出勤してメシも完食してる、というと、時差をきちんと計算してかけてきたらしいこいつは、そっか、ありがと、と柔らかく返した。

「お前は楽しそうだな」

 すこしばかり恨めしいような声でいうと、あぁうん、まあね、と明るくいわれて微妙に憎らしいほど悔しい気持ちになる。

 例え自分の存在が欠けていても、ジャレッドにはダメージなど無いのだと証明されているかのようで。馬鹿みたいに年下のこいつに惚れている、自分に頭を抱えたくなる。

「…なんだってサムなしの回があるのにディーンなしの回は一度もないんだよ」

 そうしたら俺だってハワイくらい行けるのに、くそ、と悪態をつくと、苦笑する声が聞こえた。

『…大丈夫?』

 そっと優しい声でささやかれて、思わず本音が漏れた。

「…全然、大丈夫じゃない。なぁ、お前早く帰ってこいよ」

 もういますぐ、次の便で。

 そういうと、冗談だと思ったのかあはは、と笑いが帰ってきた。あり得ないほど本気で、もうぎりぎりだということは伝わらなかったらしい。ヤケになってのみかけのビールをぐびぐびと呷った。

「すごい殺し文句。一瞬チケット取り直そうかと思っちゃったじゃん」

「…取り直せよ」

 半ば本気で言うと、南国で束の間の休暇を満喫している薄情な相棒はそうだなーとのんきにいい募った。

「でも、ちょっと離れただけでこんなに恋しがってくれるんなら、もうちょっと焦らしたほうが」

「…切るぞ」

「あー待って待って!おみやげなにがいいかきこうと思ったんだよ。ジェンの好きなチョコはアーモンド入りとかココナッツ入りとかバナナ風味とかもう各種山ほど買ったからさ。あと何がいい?アロハでも買ってく?」

 お揃いの、買ったら着る?と聞かれて疲れきっていた俺は思わず本音を漏らす。

「なにもいらない。…お前がいい」

 一瞬、受話器の向こうで絶句する気配がした。

「あれ…ジェン、もしかして本気でまいってる?」

「だからさっきからいってるだろ。早く気づけよ」

「あ、そうか、ごめん…明日、帰ろうか?」

 えっと、一番早い便だと…とあわてて本気で帰る算段をし始める恋人にくすりと笑って返す。

「バーカ。いいよ…友達と、サーフィンしたかったんだろ?ゆっくりしてこいよ。滅多にこんな休みなんてない。帰ってきたら、また馬車馬みたいに働かされるんだからな」

「でも、僕がいなくて寂しいんじゃないの?」

「さみしくなんかない」

「じゃあなんでそんなに参ってるの」

「なんか……、お前いないと、全部二倍なんだよ」

 つらいことも、悲しいことも二倍で、そして楽しいことは半分になる

 ビールの瓶を手で弄びながら、だから、ゆっくり満喫して、おわったら帰ってこいよ、待ってるからとそういうと、再び受話器の向こうのジャンボは絶句した。

「…待ってて、今から海泳いで帰る」

「やめてくれ何ヶ月かかるんだ」

 よけい俺の仕事が増えるだろ。サムを地獄に行かせる気か、とぼやくと、ふっと苦笑する様子が耳に届く。

「いっぱいオミヤゲ買って帰るから」

「…うん」

「待ってて」

 いわれなくても待ってる、すごく、と思った瞬間になんだかさみしくなってしまい、うん、と再び返すことしかおれはできなかった。

 通話が途切れた携帯に、まだあいつの気配が残っているような気がして、携帯電話を握りしめたまま眠りについた。




 翌々日の撮影現場に、ジャレッドの代わりに、セイディーとハーレイを連れて眠い目をこすりつつ出勤しようとした俺の目に入ったのは。

「おはようジェン!」

 ただいま、と。あんなに焼けるなとシャノンにいわれていたのに、うっすらと日焼けをして帰ってきた、同居人の姿だった。

「お、お前、だって帰りは三日後…」

 呆然とする俺の前で、大喜びでジャンプする愛犬達をあやしながら、ジャレッドは笑顔で、

「うん、電話切った後すぐ次の便で飛んじゃった」

なんかもうたまらなくなっちゃって。

 そういうジャレッドの目に映るのは、驚きよりも喜びに頬を染めた俺自身で。

「でも、も、もう俺出なきゃ」

「うん、一緒に行くよ」

 スーツケースをぽいとドアの中に押し込めると、今日は僕ジェンの付き人ね、と身軽に歩きだした背中からほら、と手が差し出される。

 それを慌てて掴み、車までのほんの僅かな道のりをバカみたいに手をつないで歩く。

 またクリフにあきれられているのだろうな、と思いながらも、俺はその手を離すことができず、胸の奥に生まれた温かな想いを抱きしめたまま前を歩くジャレッドの背中を見つめ続けていた。



***



 南国で過ごす休暇の予定を大幅に切り上げて帰ってきてしまった主演俳優の一人を、スタッフは驚きとそれから弾けるような喜びの声で迎えた。

 何故ならジャレッドは、関わりのあるスタッフ全員に行き渡る程大量のお土産を買って来ていたからだった。

 どうやって持って帰って来たんだと思う程のそれは、その日のうちに忙しく立ち働くスタッフ達の腹に収まり、それを横目で見ながら「俺の分は?」と不満げに聞くと「ジェンの分は家だよ」あとでね、と言われたジャレッドにはいコーヒー、とカップを渡される。

「付き人向いてるんじゃない?」と、本当の付き人をしてくれているスタッフに言われて得意げな顔をしているジャレッドは、ジェンセンの目から見ても確かになかなか優秀な付き人になれそうだった。

 なにせジェンセンの好みを全て熟知している。性格も、体調も、きっとこの現場にいる誰よりも深く。

「やめてくれ、こいつが図に乗るだろ」仕事取られるぞ、と冗談ぽく言えば、「転職する気になったら、君の仕事を奪いに来ることにするよ」と付き人の女の子と笑いながら張り合っている。

「ジャレッドが付き人だとジェンセンの仕事が増えちゃうからダメよ」と笑いながら去る彼女の背中を見送り「どういう意味?」ときょとんとした顔で聞かれて、俺がカットの声がかかる度に慌ててジャレッドの元へ戻る実験中のハツカネズミのような行動を繰り返している事に、軽く時差ボケ中のこいつはまだ気付いていないのかもしれないとホッとした。




 その日の撮影は思いの外スムーズに進み、夜が更ける前に撮影所から解放された俺は、にわか付き人のジャレッドと+二匹がいそいそと着いてくるのを引き連れて自宅へと戻った。

 ディナーは僕に任せてよ、というジャレッドが焼いたステーキを食べた。向こうで食べたのだという生のフルーツを摩り下ろして味付けをしたソースがかかった分厚いレア風味なそれは新鮮な味わいで、故郷で慣れ親しんだ味とは違うけれどとても美味しくて、また今度作れよな、と言うくらいには気に入った。

 ジャレッドがくれた土産は、ハワイにいかにイイ波が来たかと言うサーフィン話と、スタッフ達への大量のお土産と価格では張るかもしれないという程に高価な珍しいチョコレートだった。

 現地でしか売っていないのだというそれは、ナショナルブランドのものとは違う未だにひとつひとつ手作りのもので。

 クチコミで絶賛されてたからジェンに食べさせてあげようと思って、などと可愛い事をいわれ、それを口にする前に俺がジャレッドの方に口づけてしまったとしてもそれは致し方ない事だと思った。



***



「お前…」

「うん?」

 縺れ込むようにして沈んだベッドルームで、繋がって互いに揺れ合いながら、自分の足を広げて圧し掛かる、僅かに日焼けしたジャレッドの顔を睨む。

「なんか、まだ、ココナッツの匂いがする…」

「そう?シャワーで落としたんだけど…日焼け止めが、そういう匂いするやつだったから」

 嫌い?と聞かれて首を振る。だが、異国の香りに寂しかった時間を思い出し、今この手の中に戻ってきたジャレッドを実感して胸が痛くなった。

 いけない、こんなに溺れていてどうするんだ。

 こいつはまた一人の休暇が出来ればぽいと俺から離れて何処かへ行ってしまう。もっとそういった環境に自分を慣らしておかないと、本当にカナダでの撮影がすべて終わった時、俺はこいつから離れて生きていけなくなってしまう。

 仕事で離れることは全く堪えないのに、プライベートで自主的に距離を置かれるのはこんなにも違う事のように感じるのだろうか。

 躰は快感を感じているのに心は悲しさを覚えて、見つめていた視線を逸らすと、ぐい、と入れ込まれて悲鳴を漏らす。
 ジャレッドは俺の感じる部分を悔しいぐらいに把握していて、どうすれば俺が啼くのか、どうしたらすぐにイって、どうしたら焦らす事が出来るのかを恐ろしく熟知している。

「どのくらい、寂しかった?」

 聞かれて、首を振る。さみしくなんかない。お前なんかいなくても、おれはいきていける―はずだ。

 すると、そんな俺の強がりを理解し切っているようなこいつは笑って上体を倒すと、繋がったまま、顔を背けた俺の頬をくちびるで辿った。滲んだ汗を舌で舐めながら顎まで。キスをする直前まで来て、ぴたりと止める。

「僕は、寂しかったよ」

 夢に見るくらい。独り言でジェンに話しかけちゃうくらい。

 途中で帰ってきちゃうくらいにね。

 そう言われて目を向ける。

 手を伸ばして頬を撫で頭を撫でて垂れてきた髪をかき上げてやる。そのままついでのように引き寄せて口付けた。

 一週間近くも焦がれていた舌に触れ、情熱的に絡め合いながら、ジャレッドの汗の滲んだ背中を腰をてのひらで確かめる様にゆっくり辿っていく。

 臀部に辿り着いた時、恐ろしく硬いそこに触れると、躰の中に含んだジャレッドがびくりと脈打った。

「…全部君のものだよ」好きなようにして?と言われ、嬉しさと恥ずかしさに、バーカ、と言って尻をぎゅっと掴み、けれど片足を回してその部分を強く引き寄せた。

 願いを受け止め、ジャレッドは、俺をベッドに押し付ける様にしてゆらりと上体を起こした。

 一撃ずつの注挿がやたらゆっくりで、信じられないくらい深くまで届くジャレッドの太く長いペニスのかたちをぴったりと包み込んだ中でありありと感じる。

 突き刺されるたびにぷくりと湧き出る雫は腹を濡らし、耐え切れずに自分でそれを握り込んで我慢をしたいのか出してしまいたいのかわからない強さで扱く。

 ゆっくりと深く強く突き上げるジャレッドから散った汗を受け、全身が麻痺したようになって俺は躰を強張らせる。

 イく…、と耐え切れなくて漏らすと、頷いたジャレッドは俺が強く扱いた自分のものを、そっと包んで先端を撫でた。濡れ切ったそこは軽く握られて、優しく撫でられただけでもその感触に耐え切れず、全身を滾らせて達する。

 ひく、ひく、と震えながら自分の腹の上に熱い体液を零していく。

 注挿を止めているのに、体内のジャレッドは射精寸前にまで昂ぶっている。達する瞬間を動きを止めてまで凝視されている。
 閉じた瞼が震える。褒める様になだめる様に、頭をそっと撫でられて胸が疼く。

 永遠に続く関係ではない事は、はじめた時から分かっている。

 もともとストレートのジャレッドは、たまたま俺を好きになっただけで、根は女の子を求めているのだと思う。

 いつまでジャレッドがこんな風に求めてくれるのかは考えない様にしている。

 同居してから始まったこの関係は、スポーツの一部だ、とか、ちょっとしたスキンシップだ、とか無理にもそう思いたいのに、ジャレッドのセックスはそう思う事を俺にゆるさない。

 いま、全力で好きなのだと、真剣に全身で言ってくるから、儚い期待をしてしまう。

 このままずっと、そばにいられるのではないかなんて。

 耐え切れなくなったのか、ジェン、ごめん、と言って激しく突き上げ始めたジャレッドに、揺さぶられるまま翻弄されながら俺は。この束の間の遊戯で、ジャレッドが今までに寝た誰とより快感を感じてくれるといいと願ってその熱に身を委ねた。




***




 まさかこんなに恋しがってくれるとは思わなかった。

 躰を合わせた当初は、ジャレッドのモノを全部含めないほどキツかった彼のそこは、ようやくジャレッドを覚えてくれた。時折痛がったり嫌がったりすることはあれど、基本的には躰の相性は恐ろしい程最高で、日常生活や仕事は言うに及ばずだ。

 天性のバディ同士であるとしかいいようがない。

 彼の小さな下の口に深くまで突き込んだペニスは、破裂間近まで膨張している。

 だが、それを堪えて目の前の彼を凝視する。

 イく、と可愛い声で漏らされて、いいよというように頷くと安心したように彼は自分を解放した。

 彼の中に食い千切られそうに締められ、だが腹に力を込めて決死の覚悟で踏み止まる。
 ジャレッドは、目を閉じて達するジェンセンの、本人が意識していない恐ろしく艶めかしい媚態を堪能しながら内心で驚いていた。



 彼を家に無理に引き込んで、同居を始めてから二カ月。四年も一緒に仕事をしていて、知らない事はないと思い込んでいた彼の新たな顔に毎日驚かされる日々で、だが念願の恋人の座を掴んだのも束の間。

 ジャレッドは、ジェンセンの友人達との密な交際と、それからあまりの男友達の多さに頭を抱えた。

 どう考えても気がある。そうとしか思えない。
 それでもそのことに気付かないのか、彼はこれだけ忙しい日々を送っているのにもかかわらず、オフの日は友人のライブに行ったり誰かがカナダに遊びに来たといっては出かけて行く。そしてお前も行くか?とまるでついでのように誘うのだ。

 初めの頃は渋々一緒に行っていたが、自分を優先して欲しくなったジャレッドは、振って湧いた8日間のオフに策を弄した。

 さみしい、と言葉にしないまでも受話器から洩れる言葉は如実にその気持ちを表していた。友人に謝り、速攻でチケットを取り直してカナダに戻る。

 そして、帰宅した時の彼の驚きとそして喜びに満ちた表情を見たとき、ジャレッドの心は彼に完全に奪われてしまった。こんな彼の表情は、初めて見たものだった。


 もっと僕を好きになって、もっと僕を欲しがって、もっと何もかもを奪いたがって欲しい。


 そんなジャレッドの物想いを知ってか知らずか、時折ジェンセンは切なそうな目でジャレッドを見上げる。

 その度にジャレッドは、また新たな気持ちで彼に捕らわれる自分を感じる。

 彼はジャレッドの事を愛している。そう感じる。

 けれど、それを知って尚渇望するこの気持ちは何なのだろう。

 達した無防備な躰を突き上げる。彼の気持ちのいい場所を狙って幾度も抉ると、くったりと濡れた可愛いペニスは気持ちがいいのだと訴える様にまた起き上がった。

 愛しさにそこを撫でてやる。男のものを握る日が来るなんて想像もしていなかったが、彼のペニスならばしゃぶって飲んでやる事もまったく苦にならず、羞恥をして逃げたがるのを見ると寧ろそうしてやりたくてたまらなくなってしまう。


 もっと僕に甘えて、もう他の誰とも寝るなと強請って、しがみついて永遠に離さないで


 甘く締め上げる彼の奥深くに吐き出しながら。そう言ったら、どんなカオするかな、とジャレッドは伝えられない言葉を選んで腕の中のジェンセンを見つめていた。





END









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紙媒体でお渡しできなくてほんとうにごめんなさい!
土下座でございます(>_<)