※ご注意です※
以下はjajeの妄想小説です。
意味のわからない方、興味のない方は、
ご覧にならないようにお願い申し上げます。

【 歯医者の恋人 】
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 ちらりと周囲の様子を見たジェンセンの視線に、気付いたジャレッドは「場所を変えようか」と彼をそっと促した。

 頷いたジェンセンを連れてきたのは、以前リチャードに
「本命を連れてくるなら断然ココだ」
と言われていた、街の中心部にあるロブソンStを一本海側に過ぎたところにある四つ星ホテルのバーラウンジだった。

 丁寧過ぎるほどのウェイターに案内されたクラシックな店内は、アールデコ調の家具で統一され、体を包み込むような感触の柔らかなソファに身を預けて視線を巡らせれば、街の夜景がまるでこの日の疲れを癒すかのように静かに煌めいている。

 最上階だというのに吹き抜けのように高い天井にはジャズの生演奏が流れ、カジュアルな雰囲気だった先程の店とは違いそれなりの懐具合の客達が特別な時間を楽しむ為の場所になっているようだった。

 グラスワインの種類が豊富だというこの店で、ウェイターにワインリストを渡されたが、普段はビールばかりで、やワインを飲むのは大好きだが実は種類を良く知らないジャレッドは正直言って困惑してしまう。

 同じリストを眺めているジェンセンをちらりと窺うと、困っている事がわかったのか、彼はくすりと笑って好みは白か赤か、さっぱりしているものか重厚な味ものかどちらがいいかと簡単にジャレッドに好みを聞いてきた。

「赤の方が好きかな…あとはお任せするよ」

 遠慮がちに言うと、さらりとリストを眺めて、彼はジラードのジンファンデルをグラスで二人分頼んだ。

 何かつまむか、と聞かれてそれも任せるよというと、彼は今のおすすめであるらしい生チョコレートとチーズの盛り合わせを頼む。




「…ワイン、詳しいんだね」

 去るウェイターの姿を見ながら苦笑して助かった、というと、いや、と彼も微笑して返す。

「そういうわけじゃないけど、ロスに長く住んでたから。
ちょっと足を伸ばした先にいくつもワイナリーがあって、手頃で美味いワインには事欠かなかったからな。

ジラードっていうのは、ナパヴァレーのワイナリーなんだけど、ここのワインにはどれも外れが無い。今頼んだのは古樹からつくられているんだけど、その分若い樹のものより味がまろやかだ。赤が好きなら、きっと気に入ると思うんだけどな」

 目を伏せてさらさらと話してくれる彼に、そのワイナリーには一体誰と行ったのかと瞬時に問いたくなった自分をジャレッドは押し留めた。

 たかが二回。二回食事をして、その二回目に一緒にバーに来ただけの相手に、嫉妬の感情を向けられて、嬉しい人間が何処にいるだろうか。

 待つほども無くグラスが運ばれてくる。


 磨き上げられたワイングラスに注がれるのは、しなやかなベルベットのような濃い赤色。

 グラスに映るのは目を伏せてそれを眺める碧の瞳。

 望むべくもない極上の夜だと言っても過言ではない。

 だが、揺らして空気を含ませたそれをそっと口に含んだ彼の顔が微笑の形に綻んでも、ジャレッドの心は晴れる事は無かった。


「どうした?…すこし、甘すぎたかな」

 ふと、好みに合わなかったかと心配そうに問うジェンセンの目の色が曇る前に、慌てて首を振り、唇を湿らすようにもう一口含む。

 上品でふくよかな甘さを感じるフルボディが柔らかく喉を満たす。

 美味しいよ、というとほっとしたように口の端を上げる。

 好みでない訳ではない。まとまった文句の言いようのない味だと思う。
 だが、甘さと僅かな酸味を舌に残すその味は、熟してもがれるのを今かと待っている女性みたいだとジャレッドは思った。



 さっきの続きだけと、と躊躇いがちに促すと、あぁ、と思いだしたかのように彼はグラスを置いて目を伏せた。

 間をおく様に、ワインの後に運ばれてきた生チョコレートをピンで刺す。
 淡いピンク色のワインで僅かに湿ったくちびるがそれを含む。

 思わずごくり、と喉を鳴らしたジャレッドには気付かずに
ジェンセンは口を開いた。








10
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