※ご注意です※
以下はjajeの妄想小説です。
意味のわからない方、興味のない方は、
ご覧にならないようにお願い申し上げます。

【 歯医者の恋人 】
8









 ごと、という小さな物音でジャレッドは目覚めた。

「ン…」

 小さな呻き声に目を開ける。
 いつの間にか診察用のテーブルに肘をついたまま眠ってしまっていたらしい。
 妙な体制で眠っていたため、軋む体を曲げてどうにか起こすと、頭が診察台から落ちて目覚めたらしいジェンセンが、目を擦ってあたりを見回していた。

「あれ…おれ……もしかして、寝てた?」

「あ、ごめん、僕まで寝ちゃって…」

 あふ、とあくびをしながら見ると、ジェンセンは呆然とした顔で灯りを落とした室内を見回している。

「い、今何時だ…え、23時?!2時間も寝てたのかよ!?」

 信じられない、というように口元を押さえる彼に、申し訳なさそうにジャレッドは皺になってしまった白衣を伸ばしながら応える。

「ごめん、ちょっとしたら起こそうと思ってたんだけど、うっかり僕まで…もしかして、なにか、予定あった?」


「いや、ないけど…またお前、こんな時間まで残らせちゃって…」

ごめん、と逆に謝られて、ぶんぶんとジャレッドは首を振った。

「気にしないで、ぼくが勝手にした事なんだから!目が覚めたんならコーヒーでも…と言いたいところなんだけど、詰め物とっちゃったところだから、とりあえずまずは治療をさせてもらってもいいかな?」

窺うように聞くと、もちろん、といってジェンセンは苦笑した。


 それから、予想よりも調子の良さそうなジェンセンの歯に前回と同じく薬を順々に詰めてまた蓋をする。

「状況が良さそうだ。この分だと、神経は抜かないで済むかも」

 マスク越しにそう言うと、閉じられていたジェンセンの目が開き、
嬉しそうにすっと光ってジャレッドを見上げた。

 見上げてくる透き通った青と緑の入り混じった美しいヘイゼルに、思わずジャレッドは見惚れる。
 途端にカッと頬が熱くなり、手元が狂いそうになって慌てた。



 治療が終わってうがいを促しながら、紙エプロンをはずしてやると、ジェンセンは深く溜息をついた。

 その疲れ切った様子に、今夜もまたできればまた食事に行きたいと考えていたジャレッドは今日は無理かな、と諦めつつも片づけをしていると、なあ、とジェンセンに声を掛けられる。

「…今日はどうする?」

 聞かれて、ジャレッドは有頂天になった。

「ジェンセンが、限界じゃなければ、またあの店に行きたいと思ってたんだけど」

 息せき切って言うと、「じゃあそうしようぜ」と薄く笑みを浮かべながら
言われてジャレッドは、天にも昇る気持ちで頷いた。 


 時間があまりにも遅くなってしまったことと、ジェンセンが疲れている様子だった為、軽く食べて早めに切り上げようとしたジャレッドとは裏腹に、ジェンセンはビールの後ウィスキーのダブルを頼んだ。

「今日は麻酔をかけてないからいいだろ?」とからかうように聞かれて、
「もちろんいいけど、大丈夫?」と聞くと、頷いてグラスを煽る。

 今日の彼はどこか今までのジェンセンとは違うような気がしていた。
 疲労と言う以上に、緩慢な仕草は憂いに満ち、茫洋とした視線なにか悩んでいるように見えた。

「…仕事で、なにかあったの?」

 躊躇いながら聞くと、動きを止めたジェンセンはふとジャレッドを見上げてきた。

 その、切ないような、儚いような、まるで助けを求めるような視線に、僅かにビールを呑んだだけのジャレッドの体温はにわかに上がった。









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