※ご注意です※
以下はjajeの妄想小説です。
意味のわからない方、興味のない方は、
ご覧にならないようにお願い申し上げます。

【 歯医者の恋人 】
7








 次の予約は、ジャレッドが勤務している隔週診察日である土曜日の夜に入れられた。
 やはり診察時間には間に合わなさそうだが、
遅くとも9時くらいにはいけそうとのことですが、という内線に

「OK、それで予約お入れしといて」

と答える。診察に戻りながら、マスクの下でジャレッドは頬が緩むのを抑えられずにいた。

―また、ジェンセンに会える。


 前回の診療の翌日、ジャレッドは勇気を出して彼の携帯にメールを送ってみた。

『このあいだはごちそうさまでした。すごく美味しかったし、楽しかった。またあのリゾットが食べたくて、実は昨日ランチの時間に行ってみたんだけど、人気があるみたいでなんと満席で入れなかったんだ。ところで歯の具合はどう?予約は本当にいつでもいいから、気を遣わないで、僕でもクリニックでもいいので早めに連絡をください。待ってます J』

すると、深夜遅くになってから彼から返信が届いた。

『こっちこそ、夕飯につきあってもらってありがとう。あんなに遅くまで待たせたのに、お詫びが食事で済まなかった。楽しかったよ。明日、スケジュールが確定しそうだから、そうしたら予約の電話を入れておく。またな』

 一時間ごとにそわそわと携帯を確認していたジャレッドは、それを見て有頂天になってしまった。




 うずうずと週末を待ち、そして予約でいっぱいの患者をこなした土曜日の夜。

 患者も引き、事務の女の子も皆帰して、ジャレッドはひとりでジェンセンを待っていた。

 電子カルテを確認しながら受付のパソコンをいじっていると、聞き慣れたチャイムの音と共に珍しく予約の時間通りにジェンセンは現れた。

「ジェンセン、お疲れ…」

 嬉しさに声を掛けようとしたジャレッドに、顔を上げたジェンセンはだが今までで一番濃く疲労を残した顔をしていた。
 俯いていた顔が青く見えるほどに。
「どうしたの、だ、大丈夫?!」
 慌てて立ち上がり、受付から出ようとすると、彼は苦笑してそれを
押し留める。
「あぁ、…そんな心配するほどのことじゃない。今週、ちょっと仕事がきつくて…でも、もう今日で週末だし、…大丈夫だから」
大丈夫、ともう一度繰り返して、彼は受付のカウンターに寄りかかった。

「少し、休む?休憩室もあるし、ちょっと横になってから…」

「いや、これ以上待たせたら悪いし、俺も電池が切れそうだから、治療してくれ」

 青い顔で苦笑いを浮かべる彼に、ジャレッドはそれ以上休むことを強要する事が出来ず、心配しながらも仕方無く彼を診療ブースへと案内した。

 口の中の状態を診て、一度エキスカをつかい、仮で被せてあった詰め物を外す。

 エアーをかけて消毒をし、準備してあった薬を順番に詰めるべく、背後のカウンターへ行ってジェンセン用にセットしてあったトレーを持って戻る。

 ふと気付くと、ジェンセンは目を閉じ、くちびるを薄く開いた状態で眠ってしまっているようだった。

 奥歯の診察の為、深く診察台を倒して体を横にしたことで、耐えられなくなったのだろう。

 煌々とした診察用のライトに照らされたジェンセンは、眠気が眩しさに勝ったのか、少し眉をひそめた表情で束の間の眠りを貪っている。

 深く閉じられた睫毛の影には青黒いクマがくっきりと浮き出て、彼の疲労の濃さを如実に表している。
 余程疲れているのだろう、かわいそうに。


 ジャレッドは音をたてずにそっとトレーを置くと、診察用のライトの照度をゆっくりと落とした。

 そろそろと動いて、ついでに室内全体の照度も半分に落とす。これで、歩けないほどに暗い訳ではないが、かなり眠り易くはなっただろう。

 上着を脱ぎ、シャツ一枚の彼の服装に気付いて、ミニスカートの女性患者が来た時の為に足元を隠す用に置いてある、淡いベビーピンクのブランケットをそっと掛けてやる。

 これだけの動作をしても、ジェンセンは微動だにせず眠っている。


 本当は、起こしてとっとと治療を済ませ、帰ってゆっくりと休んでもらうのが一番の彼の為なのだろう。なのにジャレッドには、今の彼の切実な眠りを破る事がどうしてもできなかった。

 明日はクリニックも休みで、自分も休みで、そしてジェンセン自身も休みだ。

 出来る限り、休ませてあげたい。―できることなら、自分の目の届く範囲内で。

 静かに眠りを貪る彼の隣で、診察用の丸型チェアーに腰掛けて、ジャレッドは肘をつく。

 室内の明るさを落としたせいで、大きく取った角の窓からの明かりが強く感じられる。

 そこだけブラインドを下ろしていない窓の外には、広い道を隔てた向かい側のビルの光が入り、こんな時間までそちらも仕事をしていることが分かる。

 ふと見上げると、ビルとビルの合間には朧な三日月が浮かんでいる。

 儚げな光はジェンセンの疲れ切った横顔を撫でる様に照らし出していた。

 それを見ているうち、言葉に出来ない感情がジャレッドの体をゆっくりと満たす。

 
 離れる事も、声を発する事も出来ずに、ジャレッドはただじっと眠る彼の静かな横顔を見つめ続けていた。










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ぶらうざもどるでおねがいしますー