※ご注意です※
以下はjajeの妄想小説です。
意味のわからない方、興味のない方は、
ご覧にならないようにお願い申し上げます。

【 歯医者の恋人 】
5








 ジェンセンが姿を現したのは、結局、また日付も変わろうかという23時過ぎのことだった。

 早晩だったジャレッドは朝から勤務についていたため、流石に疲れがたまっていた。

 無人の受付で、我慢の限界を感じてついうとうとしかけたところへ、エントランスを通る際に鳴るチャイムが耳に届いたのだった。

「すいません、結局こんな時間になっちゃって…」

 申し訳なさそうに見上げるジェンセンは、待ちくたびれていたジャレッドより、疲れた顔をしていた。

「いえ、連絡いただいていましたし、全然大丈夫ですよ」

 安心させるように言えば、ほっとしたのか少し充血したグリーンの瞳を細めて笑みを浮かべる。

「こんな遅くまでなんて、大変ですね。…失礼ですが、お仕事は何を?」

 診察台へ案内し、失礼と言ってから紙のエプロンをあてがって準備をしつつ聞くと、ジェンセンはまじまじとなにかを窺うようにジャレッドの顔を見上げた。

 患者に対して仕事を聞くなんて、余程親しくならない限りジャレッドはした事が無い。

 失礼に思われたのかと、謝ろうかとマスクをずらそうとすると、彼はぽつりと呟いた。

「映像関係…」

「え?」

「映像関係の、仕事をしてるんだ。だから、なかなか時間が自由にならなくて…」

「そうなんですか、…大変ですね」

 映像関係と聞いて、詳しくないジャレッドは、治療をしながら、カメラマンか編集系の仕事なのかな、と考える。もしくはモデルなのかもしれないとふと思う。そのくらい、彼は綺麗な顔立ちとスタイルを持っていた。

 前回は時間が遅かった事もあり、レントゲンと検査関係程度で終わりになってしまった。

 だが、今日は患部を最小限削り、薬を入れるというと、彼は目をぱちぱちさせて酷く驚いた顔をした。

「麻酔をしたいんですが、体調はいかがですか?」

「あー、だいじょうぶ、です…」

 怖いのか、顔色はぜんぜんだいじょうぶそうに見えない。

 麻酔の注射を見て身を強張らせるから、「うちの麻酔は痛くないですから、大丈夫ですよ」と安心させるようにいうと、縋るようにして頷く。

 まるでいたいけな子リスを抑えつけて注射を打つ獣医にでもなったきぶんだった。

 治療をする歯の歯茎に塗る麻酔で痛みを和らげた後、注射で麻酔を打つ。

 治療をする為に否応無しに触れるくちびるは、ふわりとやわらかい。

 目を閉じて身体を固くしている彼のくちびるのあまりの淡いピンクに、ジャレッドは思わずその感触をゆびでじっくりと確かめたくなり、ぶるぶると首を振った。

 何を考えているのだろう、自分は。仕事中だと言うのに。

 それからは治療に没頭した。この歯を、見事なまでに完璧に治してやりたかった。

 患部を最小限に削り、それから無菌にしたそこへ薬を順番通りに入れる。

 時折身を竦める彼に、安心させるように声を掛ける。

 「終わりましたよ、お疲れ様でした」

 うがいをどうぞ、と言うとおそるおそる目を開けた彼の瞳は泣きそうに潤んでいる。

 まるで自分が彼に酷い事をしたような罪悪感と、何故か胸に浮かんだもっと泣かせてしまいたいような嗜虐的な感情は、必死にみないようにした。



 次回の予約の話をすると、「ちょっと仕事が詰まってて、次の予定がよくわからなくて…」
と申し訳なさそうに彼は目を伏せた。

「クリニックが休みの日でも、遅い時間でもかまいませんので、空いた日があればいつでも連絡してください」

 そういうと、じっとジャレッドの目を見つめてくる。

 その目の色になにかえもいわれぬ感情をおぼえ、「えと、いちおう僕の休みが日、月なので、その日に被らないとありがたいんですが」とあわてたようにつけくわえた。

 そして、今後の診療計画の話をしようとすると、BGMを抑えた静かな院内に、ぐぅー…、っと妙な音が鳴り響いた。

 あ、と思ったジャレッドが誤魔化そうと口を開く前に、ぷっと彼が吹き出した。

「あっ、あはは、有り得ないな、その音!」

 でかすぎる、と耐えられないというようにくすくすと笑いを漏らす彼の
笑顔は予想以上に幼く見え、可愛いらしかった。

 ジャレッドは恥ずかしさに赤くなった頬の事も忘れ、ぼうっとその笑顔に見入ってしまう。

 すると、一頻り笑い終えたのか目尻の涙をぬぐいながら、

 彼はあの、と口を開いた。

「この近くに、遅くまでやってるリゾットの店があるんだ。
 夕飯がまだなんで、歯医者のあと、寄ろうかと思ってたんだけど、その…」

 笑いながら言い始めた彼は、だが語尾を濁すように曖昧に切った。

「い、行きます!!あっ、えっと、その、ご一緒しても、いいですか…?」

息せき切って言うと、彼はほっとしたように、勿論、と言う。

「シーフードリゾットがすごく美味いんだ」

にっこりと笑いながら言われて、ジャレッドは僅かに感じていたその日の眠気も疲れも、一気に吹っ飛ぶのを感じた。









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ぶらうざもどるでおねがいしますー