※ご注意です※
以下はjajeの妄想小説です。
意味のわからない方、興味のない方は、
ご覧にならないようにお願い申し上げます。

【 歯医者の恋人 】
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 午前のまだやわらかな光が差し込む室内には、だがそののどかさとは裏腹な緊迫した空気が満ちている。

「あ、あのう……」

 無言でコーヒーを啜っているジェンセンに恐る恐る声を掛けるとじろりと睨まれる。

「…パン、もう一枚焼く?」

 聞くと、むっつりした顔でジェンセンは首を振った。

 シャワーから上がったばかりの彼は、真っ白のバスローブに包まれて白い肌と洗い立てのダークブロンドは朝の清浄な光に照らされ、まるで生まれたての兎のようにつやつやと輝いている。

―なのにこの機嫌の悪さときたら。

 どう言葉を言い繕っていいのか分からない場の雰囲気に、いたたまれなくなってジャレッドは立ち上がると、パンをオーブンに放り込み、コーヒーのお代わりを持ってテーブルへと戻る。

 窺うように見るとマグを差し出す。

 お代わりを注ぐとまたむっつりと啜っている。

 自分の分に砂糖を三つ、ミルクをたっぷり入れて

 カフェオレにしながら、ジャレッドは内心で溜息をついた。


 確かに、悪いのはジャレッドで、言い訳のしようもない。

 だが、ここまで不機嫌だとどう謝っていいものか、どうしたら彼が機嫌を直してくれるのかがわからない。

 徐々にパンが焼ける香ばしい香りが鼻孔をくすぐる。

 今日と明日は休みで、空は雲ひとつなく、そして大好きな人が目の前にいる。

―なのにこんなにも居心地が悪いなんて。

 チン、と軽やかな音を立てて焼けたパンを取りだし、自棄交じりにかじろうとすると、

「やっぱり俺も」

と声がかかって慌てて差し出す。

 まだ完全に目が覚めてはいないのか、もそもそと不器用にパンをかじる様は、子ウサギみたいで異常に愛らしい。


 あぁ可愛い。なのに、なんで僕はあんなことをしてしまったのだろう。


「…ごめん、ジェンセン。謝って済むことじゃないけど、ほんとに…」


 ごめんなさい、と項垂れて謝ると、パンをかじったまま彼がちらりと視線を寄越すのが分かる。
 ため息が聞こえて、ジャレッドは酷く悲しい気持ちに駆られた。
 だが、次の瞬間呟かれた言葉に、耳を疑う。


「…もういい」

「え…ジェン、セン、あの」

「ていうか、実は俺、まだ眠いんだ。ぜんっぜん頭が起きてない。…悪いんだけど、これ食い終わったらもう少しだけ寝ててもいいかな」

 許しの言葉と共に、窺うように予想外の願いを告げられ、ジャレッドは言葉通り飛び上った。

「も、勿論いいよ!!!?あ、じゃあ、僕ゲストルーム整えてくるから…!」
「いいよ、そこのソファで十分だ」
 
 よくないよっ!と言い捨てて慌ててゲストルームへと向かう。
 ここのところ忙しくて誰も来ていないので、シーツはひと月くらい変えていない。

 ジェンセンには極上の気分で眠ってもらいたいと、自分の為に買っておいたとっておきのシーツを取り出してベッドメイクする。

 アパートメントには二部屋殆ど使っていない部屋があり、そのうちの一室をゲストルームに、もう一室はベッドも置いてあるが、今は書庫代わりに使っているから人を泊める事は出来ない。

 ひと眠りして、少しでもジェンセンの機嫌が直り、そしてせめてもの罪滅ぼしになれば、とジャレッドは殊更に丁寧に部屋を整えた。






 
 さきほど、シャワーを終えたジャレッドが淹れたコーヒーの香りで、目覚めたらしいジェンセンはぼんやりとソファに起き上がっていた。
 少し跳ねた後ろ頭の髪が可愛らしい。
眠そうな瞳は潤んで、まだ完全には目覚めていないようだった。

「ジェンセン、起きた?おはよう、昨日は…」

 言い切る前に、むっと顔を顰めたジェンセンの手が伸びてくる。

 え、と思った瞬間には耳を思いっきり引っ張られていた。

「イテテテテテテッッ!!なっなにするんだよ!?」

 慌てて手を振り払い、ジャレッドは涙交じりに耳をかくまう。

「なにするんだだと…?それはコッチのせりふだ。昨日は、人が大人しくしてれば好き放題しやがって…まさか、いつも患者を連れ込んでこんなことしてるのか」

 地の底を這うようなセリフとその言葉の意味に、ジャレッドは飛び上って驚く。

「えっ!?な、なに??!昨日、まさか僕、君に何かしたの?!!」

 驚いて顔面蒼白になり、問いただすジャレッドの表情が嘘ではないとわかったのか、ジェンセンは怒りのオーラをふっと緩めると、じっとジャレッドの目を見つめてくる。

「…ぜんぜん、覚えてないのか」

こくこくと力いっぱい頷く。

 すると、脱力したという様に肩を落とし、はあーーー、と深く溜息をついて、彼はブランケットを纏ったまま裸足の足を床へと下ろした。

 白い足を飾るツメがピンク色で可愛い、とこんなときなのにジャレッドは無意識に思った。



そうして、耳にした出来事は、ジャレッドの度肝を抜くような正気では有り得ない所業の数々だった。








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