※ご注意です※ |
以下はjajeの妄想小説です。 意味のわからない方、興味のない方は、 ご覧にならないようにお願い申し上げます。 |
【 歯医者の恋人 】 11 |
結局、勝負はほぼ引き分けだった。 『ワインリストにあるグラスワインを、片っぱしから全部』 という無謀な注文をしたジャレッドに唖然とするジェンセンを尻目に、厳かに頷いたウェイターは、二人がグラスを空けるごとに新たな種類のボトルを運んできた。 店が用意していた本日のグラスワインは10種。 ボトルにし二本弱というところだ。 普段なら、おそらくよろける事も無く、普通に帰ってシャワーを浴び、メールを書いてからベッドに入るという全てのノルマを満たす事が出来る程度の酒量だとジャレッドは思う。 だが、腹に食べ物を入れた後とはいえ、フルで働いた週末の金曜日。 特にジェンセンは、治療の途中寝眠ってしまう程疲れていた。 それを見ていたジャレッドも、共に眠ってしまうくらい、ふたりとも疲労がたまっていた、ということを、ジェンセンを元気づけたいあまりにジャレッドは完全に忘れていた。 ワインの銘柄に詳しいだけあって、ジェンセンはかなりアルコールには強いようだった。 グラスを揺らし、空気を含ませながらジェンセンはからかうように意地のわるそうな笑みを浮かべる。 「お前、こんな時間から正気の沙汰じゃないよな。 …いつもこんなことやってるのか?」 「まさか!いつもはもっと安いバーで食って飲んで馬鹿騒ぎして終わり。至ってフツーのしがないシングル男の週末だよ」 ふうん、といってグラスを空ける為に晒されたジェンセンの喉は、はじめは雪のように真っ白だったのが、次第に淡いピンク色に染まり始めている。 女の子と遊ぶ事に、面倒さを感じ始めたのはいつの事だろうか。 ローレンに興味を持っていた。だが、それはいつかは結婚して、このクリニックの後継ぎを作らねばならないということ、親を安心させたいということ、それから、単純に公の場に出る時のパートナーが必要だということ、それだけの理由で、ローレンの何を知っていたからと言う事でもない。 だが、ジャレッドはジェンセンの何を知っているというのだろう。 ローレンのこと以上に、きっと、何も知らない。 よく知っているのは、歯の事だけ。 ここにある彼の器以外に、彼が語った言葉以外に、彼が浮かべた笑みの他に、何も知っていることなど無い。 なのに、もうそれだけで心を揺さぶられるのには十分な程にジェンセンのことが気になっている。 彼にパートナーはいるのかな。いないといいな。僕を好きになってくれないかな。 彼は、僕を一体どう思っているのかな…… 次第に霞がかっていく意識の中で、ジャレッドはあの喉を舐めたらどんな味がするのだろうと想像の中でその行為を行い始めていた。 「…ジャレッド?もう、やめとくか?」 ウェイターが新たなグラスを運んできたとき、ふと心配そうな顔で覗き込んできたジェンセンに、想像の中の淫らな彼の姿を振り払うように、笑みを作ってぶるぶると首を振る。 「まさか!これが最後だし、負けられないよ」 ウェイターに頷くと、10種目のワインが注がれる。 最後の銘柄は、ブリティッシュコロンビア産のピノ・グリ。 フルーティな味わいを持つ少し辛口の白だという。 絶品だというウェイターの言葉に期待して口に含むと、ふわりと花のような複雑な色合いを持つ香りに包まれ、舌で転がしてから飲み込めば、僅かな酸味と共に長く余韻が残る。 後味がいいと思った。 熟成された感のある白の、僅かな甘さとすっきりした味わいが全ての味を消し去り、今日のような日の最後に飲むのに相応しいと感じる。 見ると、ジェンセンも気に入ったのか、最後のワインを目を閉じて味わっているようだった。 ふと、このワインの味はどこか彼に似ていると思った。 また飲みたい、銘柄をちゃんと聞いておこう。 そう思って、立ち上がろうとした時に、ジャレッドの意識は暗くなった。 「おい、まだか?」 「うん、えっと、どこだっけ…」 「早くしろよ…ちくしょう、このエントランス、キーを差し込まないと開かないのかよ」 僅かにいら立った彼の声に、キーを早く探さなければと思うのに全く頭が働かない。 コンシェルジュは?と聞かれて、えっと、にっきんで、6時まで…と答えると彼は舌打ちをしている。 案外気が短いんだな、とぼんやり思いながら、探っていたポケットの中に鍵を見つけた。 「あった」 「よこせ」 ったく、と文句を言いながら、それを奪い取ると彼はアパートメントの入口にあるパネルにキーを差し込む。 部屋番号と言われて、707というと手早く打ち込む。 ようやくドアが開いた。 「ほら、足動かせ。おい、こら自分で歩けよ!ったく、お前重すぎ…」 くそっと悪態を付いている彼の体はコート越しにも暖かい。 よたよたと歩きながら見下ろす位置にある彼の小さな頭に頬ずりをする。 見た目より彼の髪はずっと柔らかい。 暑かったのか、少しの汗の匂いと、柔らかなシャンプーの香りがする。 エレベーターに乗り込むと、いい匂いだなあと思い、ジャレッドはつむじのあたりに鼻先を埋めて、一生懸命ジャレッドを支えて歩いているジェンセンの香りを胸一杯に吸い込む。 エレベーターが付いた瞬間、途端にぱちんと後頭部を叩かれ、「とっとと歩け!」と怒鳴られた。 「おこりんぼだなぁ…」と言いながら彼にしがみ付く様に肩を借りてよたよた歩く。 部屋の鍵を開けてくれる彼の表情は固く、頬は赤く染まっている。どうしてこんなにジェンセンは不機嫌なのだろうと思った時には、ジャレッドの意識はまた落ちていた。 12 ********** ぶらうざもどるでおねがいしますー |